リクエスト2
□それぞれの幸せを語りましょう。
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冬夜の街中を走るタクシーが、とある居酒屋の前で到着した。
料金を払い、後部座席から降りてきたのは神崎だ。
腕時計で時間を確認し、舌を打って中へと入ると、頭に仕事用のバンダナを巻いた女性店員が愛想よく出迎えてくれた。
だが、店員は神崎の顔を見るなり、一瞬目を丸くし、すぐに仕事用のスマイルを向ける。
「いらっしゃいませ」
「予約していた…」
「神崎様ですね? お連れ様がお待ちです」
まだ名乗ってないのに言い当てられ、早速居た堪れない気持ちになる。
「…ども」
この時、神崎はその予約から、仕事の都合で1時間も遅刻していた。
待たせている連中は怒っているだろうと予想しながら、案内する店員の後ろをついていく。
「こちらになります」
手を差し伸べられたのは引き戸つきの個室だ。
掘りごたつ付きの個室を予約したことを思い出し、引き戸を開けて中へと入る。
そこには、自分と同じ顔をした面々が先に来ていた。
「おっせ〜ぞ神崎!」
ビール瓶を掲げて一声を放ったのは強気崎。
「待ってたぞ」
ようやく到着した神崎に小さな笑みを浮かべるのは真面目崎。
「おつかれさ〜ん」
漬物のきゅうりをパリパリと咀嚼し、神崎に手を振るのは素直崎。
「「……………」」
テーブルに額をつけて無言で酔い潰れているのは食い気崎とヘタレ崎。
すでに酔っぱらっているのが何人かいるので、神崎は早くも帰りたくなる。
せっかくの新年会だというのに。
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