リクエスト2

□執事の苦悩と御曹司の嫉妬。
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執事の朝は早い。

自分の主人の起床時間より早く目を覚まし、主人に失礼のないように顔をすっきりさせ、身支度を終えてから主人を起こしに行かなければならない。

姫川財閥の御曹司・姫川竜也に仕えて1ヶ月と少しの神崎一も例外ではない。


住み込みの自室で目覚まし時計に起こされた神崎は眠そうな顔で目を擦ってシングルベッドから起き上がり、部屋に備え付けてある洗面所で顔を洗い、食堂で自身の朝食を済ませたあと、また自室に戻って洗面所で歯を磨き、クローゼットを開けて寝間着から燕尾服に着替える。

神崎の場合、トレードマークでもある口のチェーンピアスも忘れない。

短い金髪も寝癖が酷くないか鏡で確認し、目覚めのハーブティーをトレーに載せて主人の元へと向かう。


執事は主人の部屋に入る時はノックの必要はない。

なので、躊躇わずドアを開けた。

テーブルにトレーを置き、天蓋付きのベッドで眠っている姫川に目をやり、閉め切ったカーテンを開けて朝日を招いてから声をかける。


「竜也様、朝です。起きてください」

「んー…」


唸りながら、もぞもぞと毛布が動く。


「竜也様、今日から学校ですよ」

「……………」


今度はピクリとも動かなくなった。


「……竜也様。…竜也サマ!!」


再び寝息が聞こえ出したので大声で叩き起こした。

登校日と聞いて起きる気が失せるのはわかっているが、執事たるものそれを見逃すわけにはいかない。


うつらうつらしながらテーブルに着いてハーブティーを飲んだあと、色眼鏡とアロハシャツを装着する。

それから思い出したように制服をその上から白い制服を着用した。

姫川が通う中学校の制服だ。

身なりを整えたのを見て、神崎はいつものようにポマードを手に取り、姫川の透き通るような長い銀髪をリーゼントにセットしていく。

最初はこの髪型のセットに苦労させられた。

手鏡を見た姫川は鼻で笑う。


「80点。やっぱり角度がなぁ…。ま、これでいいか」

「……………」


未だに80点以上を獲得したことはない。

それ以上点数を上げないつもりなのだろうか。

神崎はこめかみに青筋を浮かべながら「朝食のご用意もできております」と部屋のドアを開ける。


食堂に来た姫川は、ひとりテーブルに着き、スマホをいじながら朝食のフレンチトーストを食べる。


「食事中はメール禁止」


傍から見ていた神崎は横から取り上げた。


「あっ」

「!」


画面を見ると、“今日学校だね。会えるの楽しみにしてるよーv”と受信されたメール文を見てしまった。


「か…、彼女ですか?;」


気になって名前を確認する。

姫川は立ち上がってそれを取り上げようと手を伸ばした。


「見んなよっ;」


神崎はその手をかわしながら受信された他のメールの送り主も見る。

名前はバラバラだがすべて女子からだ。


(ひとりだけじゃないだと!!?)


中学3年だが、遊び盛りなのだろう。

唖然とした神崎の手からスマホを奪い返した姫川はポケットに突っこんで席に着く。


「彼女じゃねーし! フレンドだ、フレンド!」

「へぇ…;」

「怪訝そうな目で見んなっ!;」


今はリーゼントで、目には色眼鏡をかけているが、寝起きはモデルも裸足で逃げ出すくらいのイケメンだ。

素顔を知られていればモテるのは必然である。


(最近の中坊ってませてるって言うしなぁ…)


視線を上げて考えていると、姫川は「どこ見てんだ」とつっこむ。


「あ」


紙ナフキンを手に取った神崎は、姫川の口端に付着した粉糖を拭った。


「むぶ…っ」

「取れました」

「……子ども扱いしてんじゃねーよ」


笑いかけると、ぷい、と姫川は拗ねたように神崎から目を逸らし、ナイフとフォークを動かした。


「……………」


(あれから1ヶ月くらいか…)


神崎の脳裏をよぎったのは、チェーンを引っ張ってキスした姫川のことだ。


あれから何事もなく、日々は過ぎていた。





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