リクエスト2

□静寂から救いましょう。
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夢はその時の心境が反映することがある。


まさにその通りだった。


ここは、何も見えない暗闇だ。


手のひらを見てみると、まるで発光しているかのようにはっきりと見える。

なのに、周りは闇に包まれたままだ。


とりあえず歩いてみようかと歩を進める。


何か見えるものがあるはずだ。


自分だけがそこに在る感覚は、妙な孤独感を覚える。


ここにはオレ独り。

育ってきた環境ゆえ、独りには不慣れだ。

いつだって周りには誰かがいたのだから。


けど、頭を抱えるほど『特別』な存在なんていなかった。


そいつに出会うまでは。


「!」


黙々と歩いていると、まるで幕から現れるように姫川がオレの前に姿を現した。


「姫川」


名を呼んで近づこうとする。

なのに、一向に近づけない。


今度は早足になってみる。

姫川は微動だに動かないのに、少しも距離が近づかない。


「姫川」


オレは手を伸ばす。

なのに、姫川はそれを拒むかのように一歩退き、普段は見せない寂しげな顔をしてオレに背を向けて去っていく。


「姫川!!」


オレは叫んで走り出した。


けれど、姫川は闇の中に消えてしまった。


どれだけ辺りを見回しても、いくら呼んでも、現れない。


「――――!!」


声にならない声を上げ、オレは後ろに引っ張られるような感覚を覚えた。


同時に、はっと目を覚ました。


目に映ったのは、オレと姫川の逢引部屋の天井。


隣には姫川が眠っていた。

思わずホッと胸を撫で下ろす。


昨夜の記憶がよみがえる。

お互い、裸になって、周りには言えない行為をして、死んだように眠って。



閉め切ったカーテン越しから、雨音が聞こえた。


オレは眠る姫川の横顔を上から見つめ、吐息をこぼす。


銀の長い髪の毛先を触った。

普段、ガチガチにリーゼントで固めているとは思えないほどの質感だ。


「神崎…」

「!」


返事を返しそうになったが、さっきと変わらない寝顔に口を開けたまま止まる。


確か、寝言って返したらダメなんだっけか。


「いつか…、オレから…」


続いた寝言に心臓が跳ねる。


そこから先は寝苦しそうにうなるだけ。


最近、それが続いていた。


しばらくしたらすぐに静かな寝息に戻るのに、今日は長い。


だから姫川の肩をゆすって起こそうとした。


「姫川っ」


何度も呼んで、オレには内容が見えない悪夢ら引っ張り起こす。


姫川はゆっくりと目を開けた。


「神崎…」


半身を起こし、目を擦る。

姫川の瞳に映る絶望が薄れていく。

夢だったと実感するのに少しかかったようだ。


姫川はスマホで時間を確認したあと、カーテンの方に目を向けた。


「また、うなされてた」

「……あぁ」


姫川はもう一度目を擦って答える。


「悩み事でもあんのか?」

「いや…、そういうわけじゃねーけど…」

「前にも聞いたぞ、それ」


誤魔化すように曖昧に答えられ、苛立つように言い返すオレに、また姫川は誤魔化すように苦笑するだけだ。


こいつはオレに何を隠してんだ。


怪訝な視線を送った時だ。


「…! おい…」


いきなり、抱き寄せられた。


「このまま…」


怖い夢を見てしまい、半べそをかきながらオレに縋りついてきた二葉を思い出す。


らしくない姿に、オレの苛立ちはどこかに消え、「子どもだな」と笑ってやって、二葉にしてやったように背中を優しく叩いてやる。


「………神崎…」

「ん?」

「……………」


オレに伝えたいことでもあるのだろうが、それを言い出せないようだ。


本当はオレだってわかっているのかもしれない。


姫川のあの寝言、「いつか、オレから」。


なんとなく、続きが読める。


それはオレも感じていることだったからだ。


でも、口にはしない。


いつの間にか、禁句となってしまったその言葉を。


その気持ちを。


オレは今の自分の心音を落ち着かせるように、誤魔化すように、姫川をあやし続けた。


この部屋から、何事もなかったかのように出て行く時間まで。





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