リクエスト2

□迷走執事と求愛御曹司。
1ページ/8ページ





執事の朝は早い。

自分の主人の起床時間より早く目を覚まし、主人に失礼のないように顔をすっきりさせ、身支度を終えてから主人を起こしに行かなければならない。


住み込みの自室で目覚まし時計に起こされた、執事・神崎一は、眠そうな顔で目を擦ってシングルベッドから起き上がり、フリーズした。


横で、主人であり、姫川財閥の御曹司・姫川竜也が眠っていたからだ。


「……………」


みるみると真っ青になっていく神崎。


落ち着こうと、部屋に備え付けてある洗面所で顔を洗い、食堂で自身の朝食を済ませたあと、また自室に戻って洗面所で歯を磨き、クローゼットを開けて寝間着から燕尾服に着替えた。


寝癖を確認してから再びベッドの傍に寄る。


「竜也様、起床のお時間です」

「ん…、なんだもうそんな時間か…」


優しく起こされた姫川は背伸びをした。

神崎から受け取ったカモミールティーを受け取って一口飲み、面白くなさそうな顔で神崎の顔を見て一言。


「おまえ、添い寝してやったのに酷く冷静だな」

「酷くびっくりして逆に落ち着きました!!;」


ここでようやく朝一番のつっこみを入れる。


「なんで人のベッドに入って来てんですか!? 鍵閉めたのにどうやって入ってきた!!?;」

「合鍵持ってるから」


(いつ作られたんだ一体…!!;;;)


合鍵を自慢げに見せる姫川に戦慄を覚える。


神崎が姫川に仕えてから4ヶ月以上が過ぎようとしていた。


姫川の行き過ぎたスキンシップが日に日に悪化していることに、神崎は頭を悩ませる毎日だ。


今となっては、普通の主従関係ではない。


何が問題かと言えば、いずれは有名財閥の跡継ぎになる姫川に、想いを寄せられていることだ。

中学生の姫川に。


年の差は15歳差。

15も年下の子どもに振り回される日々が続いている。

主人は執事を振り回してなんぼだが、こんな特殊な振り回し方は今までされたことがない。


(頭痛い…;)


そればかり思うようになってしまった。


自身にも原因があるのは確かだ。


それは3ヶ月前。

姫川と今の関係を終わらせたくないがために、相手を期待させるような悪あがきをしてしまった。


姫川が望む『神崎を本当に自分のものにすること』。

その望みを叶える条件が、『姫川が神崎の身長を抜かすこと』。

その時姫川はそれで納得してくれた。


神崎があえてその条件を出したのは、ただの時間稼ぎだ。


姫川には成長とともにじっくりと考えてもらおうと考えた。

恋愛は今日明日には冷めているかもしれない曖昧なもの。

中学生なので、興味本位でそちらに走っているだけかもしれない。

早まったことをして姫川の今の関係を壊したくないのが本音であり、恋愛に関係なく、神崎はただ姫川の傍にいたかった。


(せめて高校卒業してからがよかったかな…)


そんな条件は、「待てない」と一蹴されそうだったからあえて避けた。

わかってはいたが、言うだけ言ってみればよかったと後悔がのしかかる。


「んーっ」


さっきから姫川が伸びばかりしている。

脚まで伸ばし始めた。


「…どうしました?」

「いや、この頃、膝とか腰とか痛くてよぉ。学校行く前にマッサージ頼むわ」

「若いくせに何言ってんですか;」


そこで神崎ははっとする。


(もしかして、成長痛ってやつか?)


体の成長と骨の成長が合わなくて起こる痛みだ。


(そういや…、また少し伸びてきたな…)


ふと、「中坊の成長期ナメるなよ」と言い返した姫川を思い出す。

まさかこんなに早く伸びるとは思わず、せめて1年はかかると思い込んでいた神崎は、右手で顔を覆って天井を見上げた。


(本当にナメてた…;)


神崎はどちらかと言えば、遅く伸びた方だ。

成長痛も忘れるほど経験した覚えがない。


宣言をしてから、姫川はよく食べて、早寝早起きを心掛けるようになった。

まさか、もう追いついてくるとは。


一握りの焦りを覚えた。


「神崎、とりあえずリーゼント作れ」


(すでに着替えているだと!?;)


着替えも持ち込んでいたのか、中学の制服に着替えていた。


いつものように姫川のリーゼントを作ったあと、今日は、80.45点とよくわからない点数をもらった。


今朝のドッキリと、微妙な点数の仕返しに、神崎は姫川の朝食にお子様ランチの旗を立ててやった。





次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ