リクエスト
□「H箱」は正しい。
1ページ/4ページ
その日神崎は、ゲームをするために姫川の家に呼ばれた。
てっきりテレビゲームをするだけかと思いきや、姫川は、全国の大人にとっては懐かしいものを、引っ張り出してきた。
「ツイスターゲ―――ム!!」
「……………」
自室に戻ってきた姫川は、ツイスターゲームの道具を見せつけた。
床にあぐらをかいて座っていた神崎はしばらく、つっこむかどうか戸惑う。
「…面白いゲームを見つけたって言ってたけどよ…」
「これのことだけど?」
あっさりと返されてしまう。
騙されたような気がして、神崎のこめかみに小さな青筋が立つ。
「そんなの、今時やってる奴なんかいるのかよ」
「いるいる。これからオレ達がするんだからなー」
歌うように言いながら、姫川は自室の床にツイスターゲームのシートを敷き、スピナーと呼ばれるルーレットをセッティングする。
「一度本家に戻ったとき、物置の中から発見したんだよ。父親か母親が昔遊んだものかもな」
「おいおい、オレはテレビゲームすると思って来たんだぞ」
「べつにテレビゲームとは言わなかっただろ?」
「…っ」
確かに。
姫川のことだから、発売日前の新作のゲームを購入したとか勘違いしたのは自分だ。
神崎は視線を見下ろし、ツイスターゲームのシートを見る。
左から、赤、青、黄、緑の4色の○印が描かれたシート。
各々の色の数と位置はバラバラだ。
スピナーには、右手、右足、左手、左足とボードの色が描かれている。
経験のない神崎だが、ルールは聞いたことがある。
スピナーをまわし、その指示版に示された手や足を、シートの色にのせていき、倒れないようにするゲームだ。
2人か、それ以上で遊ぶためのもの。
物理的に届かなかったり、ギブアップしたり、倒れたりしたらゲームオーバー。
セッティングを完了させた姫川は立ち上がり、「じゃあ、さっそく始めようぜ」とノリノリだ。
たかがゲームで、なにを楽しそうにしているのか、神崎にはまったく理解ができなかった。
「やっぱりやるのか?;」
「当たり前だろ。いつもオレのゲーム貸してやってんだから、付き合えよ」
「……………」
仕方ないと言いたげなため息をついたあと、神崎はシートの上にのった。
姫川はスピナーに手を伸ばし、横についたスイッチを入れた。
「!」
すると、スピナーが勝手にまわりだす。
スピナーは左足→青を示した。
姫川は指示通り、左足を青の上に置いた。
その30秒後、今度は神崎の番だ。右手→黄。
「このスピナー、自動的にまわるのか」
「そう。ランダムにな」
姫川、右足→緑。
「時間に遅れたら負けってのも追加するか」
神崎、左足→赤。
「あ、神崎。オレに勝ったら、オレのこと好きにしていいぜ」
姫川、右手→赤。
「は?」
「で、オレが勝ったら、おまえのこと好きにするからな」
神崎、右足→青。
「結局同じじゃねーか;」
姫川、左手→青。
一気に、神崎との顔の距離が縮まる。
「…だいぶ違うと思うけど?」
「……………;;;」
神崎の背筋に悪寒が走った。
.