プレゼント

□そんなお前に俺は惚れてるわけでして。
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金と、この『東邦神姫』の名で今まで全てが上手くいっていた。



だが、それでも神崎には通用しなかった。



そもそも何で俺がアイツに絡んでいるのかというと…



…不本意だが、どうやら俺はアイツに惚れてしまったらしいから。



だからベタだが放課後校舎裏に奴を呼び出し、告白を試みたわけだ。



正直俺としては無理矢理押し倒しちまっても構わないが、そしたらアイツはもう二度と目を合わせてくれねぇ気がする。



だから俺なりに計画を練り、練り、練り、練りに練ってまたさらに練った結果、最初にかけた一言は…















「…いくらだ?」










これだ。
















『そんなお前に俺は惚れてるわけでして。』


















「テメェ、いくらで俺のモンになる?」





女を落とす時に使う顔で言ったのがまずかったかな。



この2秒後に神崎の全力の踵落としを食らって、これにはさすがの俺も一瞬記憶が飛んだ。



だがまだ立ってる俺を見て、神崎がさらにもう一発食らわせる体制に入るもんだから俺は慌てて手を前に出し「ちょ…待て、話聞け!」と止めた。



神崎は舌打ちし、右足を少し浮かせた状態のまま「…んだよ、早く言え。次つまんねぇこと言ったらブッ殺す」と呟く。



崩れそうになったリーゼントを支えて、櫛で直しながら俺は話を戻した。






「だから。いくら払えば俺のモンになるんだって聞いてんだよ」

「ざけんな、俺は物じゃねぇ」

「そういう『物』じゃねーよ」

「あぁ!?じゃ何だよ」

「あー、………クソッ…頭悪ぃなテメェは…」

「何だテメェ!喧嘩売ってんのか!?」

「っせぇなちょっと待ってろ!言い方変えてやっから!」








俺は神崎に背を向け、何をどう言い直したら伝わるか小声でブツブツ呟きながら必死で頭を回転させた。



その間神崎は足を下ろし、持っていた飲みかけのヨーグルッチに口を付ける。



やがて空になった紙パックをズコズコ鳴らしている神崎に、思考がまとまった俺はくるりと向き直った。



神崎がストローをくわえたまま、「…んだよ、まとまったのか」と聞くので、俺は頷いて神崎に歩み寄り、両肩にぽんと手を置く。



そして。





「神崎」

「あん?」

「いくらで抱かせてくれる」

「死ねェェエエエ!!!」






無駄に近距離なので、神崎はすかさず俺にアッパーを食らわせた。



顎を押さえてうずくまる俺の自慢のリーゼントに照準を定め、踵落としのスタンバイ。




目が、目が怖ェよ神崎。






「ま…待て、待てっつーの!」

「動くな。今すぐその竹輪麩を踵落とし決めて真っ二つにしてくれる」

「だぁあ!もうウザってぇ!」






下手に出るのに慣れていないせいもあってか…ついに我慢の限界になり、結局俺と神崎は殴り合いに。



しばらく意味のない殴り合いを続け、最後にお互いの頬にパンチを食らわせた−それと同時に、俺達は地面にバタリと倒れこんだ。



かかった時間は、10分ちょい。







「−…もう無理…」

「……俺もだっつの…」

「………」

「………」

「…何で俺達殴りあってんだ?」

「はぁ!?テメェがキモい事言い出したからだ!キモ川!」

「あってめっ…下川みてぇに言うんじゃねぇ!キモくねぇイケてる!!せめてイケてるイケ川、モテるモテ川のどっちかにしろ!」

「どこがイケてて誰にモテてるってんだよ、このモサ川!モサ川に確定!」

「あ゛ー…………クソッ!」





だめだ埒が明かねェ。



俺は身体を根性で起こすと、仰向けのまま俺を指差し、けたけたと無邪気に笑う神崎を引っ張って座らせ―



そして何か言わせる間もなくキスしてやった。






「…」

「…」

「…姫川」

「…何だ?」

「何か言い残す事はあるか」






動かないはずの身体を俺同様根性で奮い立たせ、踵落としの体制を取る神崎。



肌で感じ取れる殺気に、さすがに俺も血の気が引いた。







「お、落ち着け神崎!」

「うるせぇ!テメェ…よくも俺の汚れなき唇に姫川菌を…!」








怒りなのか照れなのか、真っ赤な顔の神崎はよく見ると若干涙目。



げっ、マジで?



神崎、今のファーストキスかよ!?



…早く言えや!








「だ、……だってお前、こうでもしなきゃわからねぇだろ!?」

「あ゛ぁ!?何が!!」

「〜っだから!いくら出したら!俺と!付き合ってくれるか!?…って聞いてんだ!」

「はぁ!?付き合、…………誰が!」

「テメェが!」

「…誰…と?」

「俺と!」

「……………」

「……………」





神崎が口を開けたまま、ぽかんとして固まった。



俺は俺で、結局ストレートに言っちまったのが恥ずかしくて赤面する。



計画狂いまくりだ、だから嫌なんだよコイツは…






「え…………俺………?」





しばらく神崎は口を開閉させて酸欠の金魚のようになっていたが、手で顔を覆うと盛大にため息をついた。





「わ…わかるかよそんな言い方で!」

「あぁ?何だそりゃ。直球が良かったのか?直球にしろ何にしろ、俺は踵落としを食らっただろうがな」

「何だよいくらで俺のモンに…って…」

「俺の恋人(モン)だろーが」

「だから!その上から目線が腹立つんだよ!大体開口一番金の話をする時点でアウトだっつーの!本当に付き合って欲しいと思うんならストレートに言ってみろってんだ!」





神崎は怒っているようだが、自分からすれば何に怒っているのやらさっぱりだ。


金はいらねぇって事か?


金なんて要らない、お前のその熱い気持ちで十分、とか?




………







「な…何ニヤけてんだ気持ち悪ィ……」

「…!え?あ、あぁ…悪い…」







いや、ニヤけずして何しろと。



俺は、何とかポーカーフェイスを作ったが、座り込んだ神崎が可愛くて愛しくて…



膝をついてまたキスしてやろうと顔を寄せたが、





「!調子乗んな馬鹿野郎!」






頭突きをくらい、今度こそリーゼントが崩れた。





「…お前、女よりめんどくせぇ」

「あぁ!?」





もう諦めて手櫛でまっすぐ髪を下ろし、グラサンを外して俺は神崎の目を覗き混む。





「?な、何だよ………」




夕日を受けて髪と同じオレンジに光る神崎の目は、驚くほど綺麗だった。



綺麗―…




…そんな、素直な感情がすぐ出てくることに自分が1番驚いている。




神崎のせいだ。




コイツは一体どこまで俺を狂わせれば気が済むんだよ。








「…?何か言えよ、コラ」








当の本人は俺の気持ちなどつゆ知らず、困ったように俺と地面を交互に見ては時折「馬鹿」とか「フランスパン」とか悪口を言っている。




俺が溜息をついて神崎の口に付いた血を指で拭ってやると、ぴくりと身体を震わせた。




…立っているだけで周りを怯ませるほどのオーラを持っている男が、こんな反応するなんて誰にも教えてやらない。




俺だけが知っていたい。










―そんな思いが頭の中で爆発し、俺は気づけば神崎の手を握っていた。









「………神崎」

「だから、何だよ…」

「……………好き」

「…………………」









奴が目を見開いた―




その直後、俺が奴の全力の照れ隠し踵落としを食らうまでかかった時間はわずか5秒。



顔から地面に倒れこんだ俺に向かって、神崎は「死ね!百万回死ねこのキモ川!」と言い残して去っていく。






「―…」







だが―確かに俺はこの目で見た。




踵落としの直前、奴が顔を真っ赤にして…







『−…バーカ、俺もだよ…』







と言ったのを。









「はっ…可愛くねぇの…」







だが−





そんなお前に俺は惚れてしまった訳でして。



明日会ったら、きっとまた顔赤くして慌てるんだろうなァ。



…前途多難な感じがバリバリだが…









「…………っしゃあ!」









俺もアイツもお互い惚れてしまったわけでして。






とりあえず、柄にもなく馬鹿みてぇに喜んでおくことにしようかね。




Fin


雪苺様からリンクお礼小説です!
姫ちゃん、言い方と赤面しどころズレてる(笑)
姫川菌におかされた神崎さん(爆)
のちの姫神が気になる展開です☆
 

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