プレゼント

□赤ずきん
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とある村に赤いずきんを被った女の子がおりました。いつでも被っているのでその愛称をもって『赤ずきんちゃん』と呼ばれていた―――のは5つの山を越して大きな河を渡った向こう側のお話でした。
さて、ここはちょいと治安の悪いイシヤマ村。
ここでは赤いずきんならず赤いパーカーを愛用する男がおりました。彼は常にそのフードを被り、やはりその愛称にならって『神崎さん』と親しまれていたそうな。

「ちょっと待て。パロの意味ねぇしっつーかパーカーキャラは夏目じゃねぇ?」

何処へのツッコミかは謎ですが「聞けよ人の話」神崎さんの隣に住む友人からとある頼まれごとをされたのでした。



「神崎君、城ちゃんのお見舞いに行ってきてくれない?」

友人の夏目です。城ちゃんこと城山は神崎さん、夏目の友人であり森の向こうの集落で暮らしています。
しかし今は風邪で床に伏せっているそうです。

「何で俺が。てめぇで行けよ」
「俺バイトなんすよ。大事な側近が病気なんだ、いいじゃない」

とある村人は城山の風邪をこう云いました。『あいついよいよ過労で倒れたんじゃねーの?(笑)』と。

「カゴの中に風邪薬は勿論、栄養ドリンクとかレンジで温めて食べられる雑炊とか病気の時に持ってこいなのが入ってるから。どれもバイト先でのイチオシだよ。イシヤマドラッグ店をどうぞご贔屓に!」

何気にバイト先の宣伝をしても神崎さんは右から左へと流します。中身を1つずつ確認していると妙なものを見つけてしまいました。

「…おい、違う栄養ドリンクが混じってんぞ」
「それはカゴの奥底に仕舞っておいて。因みに神崎君があげちゃ駄目だぜ?バイトが終ったら俺もお見舞いに行くからそれまで未使用・未開封でヨロシク」

ある意味では栄養ドリンクには違いありませんが何故に病人の見舞い品に夜の栄養ドリンクが混じっているかは大きな謎ですが、これでも心配している神崎さんは

(途中で捨ててやろ…)

城山の身を案じて決心しました。

「森と云っても日差し強いからフードはちゃんと被って寄り道せずに真っ直ぐね」
「誰が寄り道するんだ、ガキか」
「最近じゃ森で“狼”が出るらしいぜ」
「ふぅん、狼ねぇ…」
「何でも赤いパーカーのフードを着用してて、金髪にピアスに顎に傷があって目付きの悪い身長178センチのツンデレのイニシャルKって人をすっげぇ狙ってるらしいから気をつけて行くんだよ!」
「無茶苦茶ピンポイントに云ってくんな!その狼も誰かって丸解かりじゃねぇか!」

はてさて通り道に狼が出るなど物騒ですがこれもイシヤマ村では普通なことでございます。夏目からの忠告をうんざりと聞きながら神崎さんは城山宅へと向かいました。
森の中は木漏れ日が差し、周囲の自然や神崎さんの赤いパーカー姿は大変に目立ちます。

ゆらゆらと動く赤い果実のような姿を一匹の獣が見つけました。噂を呼んでいる狼こと姫川です。以下『狼姫』と呼ぶことをご了承下さい(笑)

「今日は1人か。あの情報は確かだったな」

いつもは城山・夏目を引き連れている神崎さんですが片や病気、片やバイトと単独行動を余儀なくされた状態に狼姫もほくそ笑みます。
行き先は城山宅である情報も仕入れ済みで先回りして神崎さんを待ち伏せました。

「グールグルグルヨーグルッチー。神崎一でっす、っと」

自作の歌と愛飲するヨーグルッチと共に森を抜けていると茂みから現れたフランスパン…いえ、リーゼントに目を向きました。

「よぉ神ざ「すみません人違いですサヨウナラ」

狼姫の出現に神崎さんは早足で立ち去りますが当然こちらも追い駆けました。

「台本通りにやれよ!話がしっちゃかめっちゃかになるだろ!」
「このパロ自体が既にしっちゃかめっちゃかだボケ!」
「あ゛ー!地域限定プレミアムヨーグルッチやるからシナリオ通りに動け!」
「よし、どっからやり直せばいいんだ」
「釣られないで下さいよ!?」

会話より現物に心奪われてしまう神崎さんですがどうにかこうにか話の軸は戻りました(?)


改めて……―――。


森を抜ける途中、地域限定プレミアムヨーグルッチで舌鼓を打ちながら木の袂で休憩していると揺れた茂みから狼姫が現れました。

「よぉ神崎、何してんだ」
「見りゃ解かるだろ。休憩だ休憩」
「城山のやろーが風邪だって?聞いたぜ」
「だからどうした。てめぇも寝込め」
「そうしたら見舞い来てくれんのか」
「ふん。寝込み襲ってぶっ殺してやるだけだ」
「ククッ、云うねぇ」

村で噂の狼はこの狼姫だと100%確信している神崎さんはあまり取り合わない態度です。この後の展開もロクなことじゃない。それを考えると顔を顰めてしまいました。

「見舞いに行く人間がそんな顔すんなって」
「俺の勝手だ」
「見舞いとくれば花か食い物だな」

食べる物系は既に夏目から持たされています。これ以上の荷物が増えるのも面倒ですが狼姫は提案します。

「花くらい景気づけに持ってってやれば?神崎からやりゃあいつも喜ぶだろ」
「やろーが野郎に花を見舞い品にするとか薄ら寒いわ」
「病気で滅入ってる時は花の一輪や二輪あるだけでも違うんだぜ」
「見舞いに良さそうな花がこの辺りにあんのかよ」
「この先で東条が花売りのバイトしてるぜ」
「花売りって…一歩間違えば危ねぇ響きだぞ」
「ツッコんでやるな。俺も一瞬思ったけど」
「金ねぇし俺」
「金なら出してやるからつべこべ云わずに花を摘むなり買ってくるなりしろよっ」

どうにかこうにかシナリオ通りに乗せたいのですがなかなか進んでくれず、狼姫は財布ごと手渡すと神崎さんの背中を押し出します。

「じっくり選んでついでに世間話でもしてこいっ」
「魂胆見え見えだぞ。必死か」
「お前も悪いんだぞ。いいか花だからな!?絶対に花持ってくるんだぞっ、いいな!」


そこまで念押しされるといっそ哀れに思えます。云いつけながら何処へ行くのやら狼姫をご丁寧にも見送りました。

「面倒くせぇー……」

本音を呟きながらだらけた足取りで出張花屋を開いている東条と出会いました。

「おう神崎、今日も赤いフード被ってんだな」
「役のおかげさんで。つか東条お前どの童話でも違和感ねぇ役得キャラだな」
「そうか?で、今日はどうした」
「城山の見舞い用で適当に花包んでくれ。あっさり目で尚且つ1本自体高いので」
「難しい注文だな」
「金はあるから気にするな」

狼姫の財布からなので何ともシュールな会話です。
神崎さんが1人でというのも珍しくはありませんが、いつも連れる2人がいないのは東条の目にも不思議なのでしょう。世間話を交えながら「あ」と思い出したような一言です。

「この森で狼が誰か狙ってるって噂あるんだ、知ってるか?」
「知ってるも何もそれ俺だし相手も姫川だし…」
「マジか」
「マジだ」
「お前も何かと大変だな。てかこれって赤ずきんパロでいいんだよな?」
「疑いたくなるが、そうだ」

お見舞い用の花を摘んで足止めさせるというシナリオシーンも崩壊してる時点でパロ自体も崩壊してますが、そんなことを気にしていたらキリがありません。

「通常通りならばーさん(城山)を食った狼(姫川)がばーさんに化けて赤ずきん(俺)を待ち伏せて食って狩人に討たれて終わりだろ?けどこのパロのオチが読めねぇ…」
「とりあえず1人は危険だぜ。この後城山の所に行くんだろ?」
「つっても赤ずきんが俺の時点でオチは…。………ん?」

東条の一言で神崎さんは気付きました。

「俺もう行くわ。花サンキュ」
「なんだ、いやにあっさりだな」

覚悟のオチも腹を括ったかのように思いましたがどうやらそうではないようです。
きっかけは東条のひょんな一言にあり、神崎さんは赤いフードを被り直すと不敵に笑いました。

「赤ずきんパロ、今から本格的にスタートだぜ」




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