プレゼント

□Congratulations
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―――3年前―――


(……随分と気合の入った奴だな)

姫川竜也、当時15歳。石矢魔高校1年。
すれ違った同学年と思しき少年に感心めいたものを抱いてしまった。
金髪に染めてるというのはこの学校ではよく見る姿な上に珍しくもなんともない。
右耳は形の違う赤い石がはまったピアスを揺らし、左耳は2つ並んだイヤーカフスとリング状のピアスには細いチェーンが付き、その先は口にも空けたピアスと繋がっていた。

(あの傷を目立たなくさせる為?だとしたら余計に悪目立ちしてるぜ)

より際立ち、近い内にも番を張っている上級生に目を付けられるだろう。
それも所詮他人事。知ったことじゃあないと嘲笑った。

「……(今の奴…マジかよ…)」

神崎一、当時15歳。石矢魔高校1年。
すれ違った相手の気配がなくなったのを見計らって振り返り、その顔は唖然としていた。
銀髪だけでもかなり目立つのに、いつの時代だと突っ込まんばかりのリーゼントに整えていた。それも半端な長さではないから余計に面食らった。
更には際どい色合いの紫のアロハシャツに緑色のレンズのサングラスと、趣味は悪い。

(イカれたやろーもいるもんだぜ…流石は不良校と名高い石矢魔校だな)

強烈過ぎる格好は一目見たら忘れもしないだろうがこの石矢魔高校では別な意味でも注目の的となろう。
だが結局は自分の身に降りかかることでもないから、変な奴だったとだけで感想は終わりだ。


例えそれが意図的ではないにしろ相手への威嚇や挑発だと思われようが、“自分には関係ないこと”とこの時は流していた。
ただ1つだけ確かなのは、互いが互いの名を知らないその時に“一目だけの印象”を瞼に、頭に、記憶に、残していたということ。



+++



もう少し先かと思われていた桜の枝がついこの間に満開となって咲き乱れた。
薄ピンク色の花を咲かせるその木を見る度に春だという言葉しか浮かばないが、陽気な天気と共に浮かれる気分である。
今日は県下一の不良高校に唯一ある尤も大きな行事、石矢魔高校の卒業式だった。
ラクガキだらけ、壊れた壁、割れる窓、そうして数多いる不良が集う校舎からまた何十人と旅立つ。
不良云えども元を正せば10代の若者達だ。学校という場所からの卒業は情に脆い生徒にとっては涙の嵐もまた必須。
大半が退屈だと思っていた式典も終り、それなりに通い慣れた学び舎に名残惜しそうな不良もやはりいるものだ。
時間と共に校舎には人の気配もまばらとなり、最後の別れのように学校全体を歩き回っていた神崎の足は学校の裏側に辿り着いていた。

「やっぱここか」
「おう」

まるで待っていたと云うように姫川が返事をする。
神崎自身も確信を持って来たのにも理由があった。

「いきなり写メでこんなの寄越すんだからな」

送られてきたメールに添付されていたのは満開の桜だった。
それと同時に画面の端に写り込む銀髪のリーゼント。

「解かるようにわざと写したんだよ」

姫川もこの石矢魔に通った生徒の1人だ。
こちらも神崎とは別行動で名残惜しむ情はないながらもそれなりに徘徊し終え、この桜の木を終着点とした。

「ここも見事に満開だな」
「タイミングよく咲いてくれたもんだぜ」

花壇なんてものが作られようなものならたった数分で踏み潰されて終るような石矢魔高校に唯一存在する花の木だ。
誰かに荒らされることもなく枝を折られることもなく、2人が1年の時から、それよりももっと前からあった。

「…終ったなぁ、色々と」
「…あぁ。全くだ」

お互いに微笑した。
思い出せばキリのない数々の出来事。花のようにキレイなものではなくそれはいっそ嵐だ。

「卒業、おめっとさん」
「ご卒業おめでとーございました」

またもお互いに言葉で祝いコツンと軽く拳をぶつけ合う。
時間にすれば、3年。
あっという間に過ぎ去り、いつまでと思っていた日すら遠い出来事のように思えて仕方ない。
一体いつの間にこんな所まで来てしまったのだろう?
そんな思いはこの先だってあることだろうが、1つの締めくくりをしたこの日に考えればより深い思いが巡った。

「なぁ神崎?」
「あ?何だ」
「今から3年前に俺もお前も…何処の誰がこうやって互いが隣にいるなんて考えたよ?」
「…考えねーだろ、そもそも」

今でなら石矢魔高校に入った時の自分達に云いたい。
お前、3年後にとんでもないことになってるから覚悟しとけ。
総ての意味を込めて、皮肉的に、それでも楽しそうに笑いながら予知のように語るのだろうか。
もしかしたらその当時に未来の自分達がそれぞれに喋りかけていたのかもしれないが記憶にないだけか、などとありえないことに噴き出した。

「で、姫川はこれからどうするんだ」
「俺は不本意ながら身内が卒業祝いだ挨拶だなんだで各所を巡る予定を勝手に組まれてる。そっちは?」
「似たようなもんだが巡回はしねぇよ。ただ俺が帰って着次第…卒業祝いも兼ねた宴会するぞって親父が」
「…楽しそうだな。混ぜろそっちに」
「ヤだよ。つか身内以外は絶対入れるなってお達しがあるから無理だ」
「俺は身内のようなもんだろ?」
「サラっと云うな。そりゃ居ても違和感ねぇが…色々あんだろお互い」

家も家、自分達の立場も立場があるだけにこの時ばかりは我侭も云ってられない。
今日だけだと我慢すればいい話だが“今日”という日は今後の人生で存在しない1日だ。
それでも同時に腹を決めては仕方ないと言葉で自分達の思いを少しだけ押し留めた。

「それじゃあ一先ず行ってやるとしますか」
「こっちもさっさと宴会開いてくるぜ。なんか良さそうなのあったらかっぱらって来る」
「こっそり頂いてくるとか言葉オブラートに包め。あからさまだぞ」
「どっかのクソリーゼントみたいにお上品じゃねぇもんで」
「そうか、そりゃ悪いことを云ったもんだ。失礼しました」


―――こんな遠回しな嫌味の応酬も愛しいと思い始めたのはいつの頃からか。


「それよか神崎、第二ボタンの意味とか知ってるか?」
「こんな時によくある話を持ち出すな」
「その様子じゃ知ってんだな」
「そりゃ三度も卒業式迎えてりゃ何となく耳に入るわ」
「俺のやろうか?」
「はっ、今更になって形あるもんなんか要らねぇよ」


―――本当に、いつから……それこそ、“いつの間に”だった。この日を迎えたのと同じように。


「第二ボタンの位置が丁度心臓の辺りで、それが自分の心だのハートだのって解釈で、だから相手に渡すのは第二ボタンだとかンな甘ったるい話なんざ反吐が出らぁ」
「自分の心に在る想いをあなたにあげます、なんて思いを無下に砕くな神崎も」
「ふん。てめぇみたいにロマンチストな柄じゃねぇからな」
「俺の心はお前にあげちまったから、いつでも神崎と共に在るつもりなんだけど」
「云ってろバーカ」


―――どんな形であっても総てを合わせると自身を囲むようにいた、その存在。


「なんだろう…別の意味で涙が込み上げてくるぜ?俺は」
「泣くな鬱陶しい」


―――共にいられることに、隣に寄り添えることに、繋がった想いが幸せだと今なら云えるだろう。


「本当に要らねぇのか?」
「欲しいなんて強請ってねぇだろ。そもそも強要すんな」
「俺の誠意と想いの表れをね?」
「…姫川の誠意と想いなんかこれまでに数え切れねぇくらいに貰ってるし」

トスッ、と心に矢が突き刺さった音が聞こえたのは姫川だけだった。

「ぶっちゃけ、欲しいもんはあるにはある」
「珍しい発言だな」

あまりこれが欲しいだのあれが欲しいだの云わない神崎からの貴重は発言に心が躍る。

「新しいアクセサリー、それでいい」
「どんな?」
「派手すぎずかつシンプルすぎないデザイン性のある銀色の輪っか。大きさはココに収まるくらいで」

何処かとは口には出さずに器用にも姫川の唇に軽く押し当てた指で答えを示した。
隙間から見えた神崎は挑発的に目が訴え、どうしようもない熱さに鼓動が大きく打ち鳴らした。

「てめぇのボタンと一緒に寄越せ。だから用意しとけよ」
「一発で気に入るのくれてやるよ。たっぷりの愛と想いを込めてな」
「ははっ。重すぎんだろ、それ」

くつくつと喉を鳴らすとそれぞれの携帯が着信を鳴らした。
式典が終って随分と経つのだ、多分見なくとも身内からの催促だろう。
最後くらいじっくり浸らせてくれないながらも、聞こえない・気付かないふりをして着信を無視した。

「あ。そうだ忘れるとこだった」
「うん?」
「これ、やるわ。俺要らねぇし」

と、目の前で学ランの第二ボタンを引き千切ると姫川へと放り投げた。
今さっきまでそこのボタンの意味について話していたのに、あまりにも唐突なやり方に少し戸惑いを見せた。

「誰もお前にやらないなんて云ってねぇだろ」
「……。…うわ、最高の殺し文句だ」

神崎なりの“心に在る想いを”との態度に絆されるのは果たして何度目になるのだろうか。
これならば次に会う時に送るだろうアクセサリーも気合を入れなければと思っただろう。
神崎にと、そして自分用にもと。

「けどまぁ…あれだぜ姫川」
「?」
「0時過ぎるまでが“今日”だから、1時間だろうが10分だろうが事をさっさと終らせるなりすりゃ充分だろ」

不敵な笑みを浮かべた神崎につられてこちらも口角を釣り上げた。

「だよなぁ。それに筋書き通りのもんを外れるのが不良ってもんだ」
「その通り。解かってるじゃねーか」

だとすればやることはたった一つだ。

「「必ず“今日”にこの場所で」」

ニッと悪戯っこのように笑い合い、

「待ってるぜ」
「待たせるんじゃねーぞ」

地面を指しながらそれ以上の言葉は要らない約束を交わした。






卒業祝いにプレゼントしてくださったシロウ様の作品でした!\(^o^)/
まさか卒業祝いをくださるなんて!!
もらった瞬間ガチで『ヾ(゚ロ゚*)ツ三ヾ(*゚ロ゚)ノ 』ってなってましたw
姫ちゃんに第二ボタンあげるんだったら、第1ボタンを私に寄越しなさいくださいよ←こういう使い方ですねシロウ様っ(≧▽≦)
この2人、卒業と同時に結婚すればいいんだ!!
こんな幸せな卒業式は知らないっ!!
卒業式のあとは結婚式ですかそうですか
―――で、挙式はいつなんですか呼んでくださるんですか!!?<●><●>
招待状が来なくてもいきますよっ
陰から「おめでとう(ノ▽T)」と号泣させていただきますよ!
シロウ様素敵な小説ありがとうございましたっ(≧▽≦)
 

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