頬風〜hohokaze〜
□マニフェストを信じてる
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廊下を歩きながら、もう我慢が出来なかったのか、化けの皮を剥いできた。
「なあ?先生!どうよ?俺の制服姿、カッコいいだろ?」
背中からかけられる声に振り向きもせず、
「あー、はいはい。カッコいいカッコいい」
適当に答えると、ぬうっと後ろから手が伸ばされた。
「こっち見て言って」
腕を掴まれ、足を止めさせられた。
「バカか。ここをどこだと思ってるんだ」
ブレザーの、ネクタイ姿の藍原は急に大人びて見えて、ドキリとしたことはバレたくない。
腕を振りほどいて、歩き出した俺の後ろで、
「別に何もしねえよ…。俺、約束守ってんじゃん」
子供っぽく拗ねた藍原に、どうぞ、と教室のドアを開け促した。
上げた顔はもう笑顔だ。
「おお!ちっちぇ!」
とか、はしゃぎながら藍原は適当な机の上に腰掛けた。注意をしたいところだが、椅子に座れというのは無理な話だ。
「あ!先生のことじゃねえよ?」
おとずれた成長期にいい気になっている。
「あ、そだ。先生!入学祝に、俺やっと携帯買ってもらえてさ。アドレス教えてよ」
ズボンのポケットから携帯を取り出しながら藍原が言う。
「ほう。じゃあ、こうやって押し掛けてくることも無くなるわけか」
「んー…、まあ…。高校ちょい遠いし、部活も塾もあるからさあ…」
カチカチと携帯をいじくり出した藍原に、俺との会話よりも携帯が気になる年頃か、と内心苦笑する。
いっそ、そのまま、『先生離れ』もしてくれればいいのに。
「悪いけど、俺、携帯持ってないんだわ」
「え…?」
藍原が手を止め、顔を上げた。目を丸くして、口をポカンと開けて、俺を見る。そして、急に動揺を見せた。