置き場

□視界
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ふと気付くと私の視線の先にはあの人がいる。
今年、初めてクラスが一緒になった人。
文武両道、それで俗に言うイケメン。
席は私の斜め前。
だから目に入るって訳じゃなくて。
無意識のうちに視界に入ってるあの人。
あ、いや、別に嫌じゃないよ。
…なんでだろ、みたいな。

「…みょうじ?」
「え?あ、どうしたの?」
「いや、ボーッとしてたから」

放課後の教室、二人きり。
…あなたのこと考えてたんですけどね。
なんてそんなこと言えずに、目の前にいる人…
土方十四郎の顔を見る。

「いやー、考え事しちゃってね」
「お前が考え事って…珍しいな」

くくっ、と喉の底から声を出して笑ってくる土方くん。
ちょっと傷付く。

「で?何考えてたんだよ」
「…は?」

それ、聞きますか、普通。
普通だったら聞かないよね、こんなこと。
私は答えを思案する。必死に。
それで出した答えがこれだった。

「教えない」

ふっ、と口元を緩めながら見つめると、土方くんの口も意味有り気に弧を描いた。

「じゃあ…俺が当ててやろうか」
「…えーと…」

当たっちゃったら怖い。
いや、当てられそうで怖い。
だから今は余裕なんてなくて、余裕綽々と『うん、当ててみなよ』って言えなかった。
そんな態度を察したのかはわからないけど、土方くんは言っていいのか、って確認してきた。
優しいんだよね、土方くん。

「うん、まあ、いいよ」

少し躊躇いながらも私は承諾した。
次に来る言葉を待ち構えながら。

「俺のこと、とか」
「―…」

あ、たっちゃった。
エスパーなんだよねきっと土方くんって。
なんだろ、ほんと、うん
あったりー♪なんて言う暇もなく、顔が赤くなっていくのが自分でもわかる。
当たったのを悟られたくなくて、隠すように俯いた。

「え、」

だけど、当たっちゃったのがわかったみたいで、
よくわからない言葉を発した。
何でえ、なの。

「……えっ、」

いやいやいや。これってどうよ。
顔を上げれば土方くんの顔も真っ赤。耳まで。
次は私がよくわからない言葉を発してしまったじゃないか。

「まさか、俺のこと考えてるとは思わなかったんだよ…」

くしゃり、と自分の頭に手を置く土方くん。
なんだかすごく、可愛らしく見えた。

「それって、俺のこと好きだ、って捉えていいのか?」

目線を合わせづらくて、私はちらちらを土方くんを見る。
だけど土方くんはじっ、と私のことを見つめてくれてて。
なんかもう、爆発しそう。

「あの、えっと、…気付けば土方くんのこと考えてて、いつも視界に土方くんがいて。
 土方をくん見るとすごく幸せな気持ちになるの。
 …これって、好きってことかな」

ぼそぼそ、と呟くように言った言葉。
聞こえたかな?
そう思って目線を合わせた。
すると、途端に視界が暗くなる。

「…っ…?」
「それが、好きってことだ」

どうやら抱きしめられたみたいで、ふわりといい匂いがする。
私はどうしていいかわからず、兎に角背中へと腕を回す。

「……好き、なんだ、」

自分の気持ちを噛み締めながら。






執筆/1120

 

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