置き場

□最初から嘘だった
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「やあレディ」
「…レンじゃない、何?」
「特に用と言った用はないんだけどね」

一回軽く息を吐いてレンの方を向く。
会いたかったよレン。
そう言いたいのに口は開かない。
素直になりたいのに、私は素直になれない。

「用がないなら来ないでよ」
「はは、手厳しいな」

ふ、と苦笑するレン。
また貴方を傷付けてしまった。
付き合ってるのに、何でこうも素直になれないんだろう。
こんな自分に嫌気が差す。

「…実は、用がない、ってのは嘘になるんだけど」

何処かで擦れ違い、気付かずそのまま時は進んでいた。
私たちの時は止まったまま、…いや、或いは私が止めてしまった。

「別れを伝えようと思って」

嗚呼、やっぱり。
止まった時を、また動かす術を私は知らない。
分かるのなら今すぐ使いたい。

「ふ、そんな感じはしてたわ。別れましょう」

違う。そんなことが言いたいわけじゃない。
もう元に戻れないなら最後くらい素直になってよ、私。
何でこんな言葉しか言えないの?

「特に何も出来なかったわね」

少しの間だったけど、レンは私に色々してくれた。
私は何か出来ていた?

「つまらなかったわ」

つまらなくなんかない。色々な思い出を貰った。
私は何かレンに楽しい思いをさせてあげることが出来ていた?

「もう少し楽しめそうだと思ったのに」

十分楽しかった。
ほんとはもっと一緒に居たいのに素直になれない。

「つまらなかったかい」
「ええ、そうね」

もう、レンは今更私のことなんてなんとも思ってないのだろうけど、
私はまだレンのことが大好きで、大好きで。
大好き、じゃなくて、愛してて。
なのに冷たく当たってしまって、レンに嫌な思いをさせてしまって。

「まあ、最初から全部嘘だったのよ。付き合ったのだってお遊び程度、って言うこと」

私、馬鹿じゃないの?

「好き、って言ったのも、愛してるって言ったのも、全部全部嘘」

全部全部嘘、っていうのが嘘で。

「…もう会うことはないでしょうね。卒業オーディションも近いし。ペアの七海さんと仲良くどうぞ」
「なまえ!」

駆け出す私。
私の名前を呼ぶレンを無視して。

「ごめんなさい」

これが嘘吐きの末路。

















最初からだった
これが最大の嘘。










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お題は 確かに恋だった 様から

 

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