置き場
□アップルティー
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「んー…、疲れた…」
ふう、と大きく溜め息を吐き、もう既に暗くなり、星の出ている空を仰ぐ。
今歩いているところはあまり街灯がなく、星が綺麗に見えた。
「なんであんなハードなのかな、ほんと」
私は剣道部に入っていて、一応女子の部長を務めている。
もうすぐ大きな大会が近付いているということで、私達剣道部は他の部活より帰宅時間が遅くなっている、ということ。
だからこんなに星の瞬く夜道を歩かなければいけない。
これでも一応女だったりするから、怖かったりはするけど、竹刀持ってるし、剣道部女子部員の中では多分一番強いから大丈夫、と見栄を張り、
『ほら、私は大丈夫だから他の女子部員送ってあげて?』
と、口をついて出てしまったのだった。
―…私の好きな人である、沖田くんが誘ってくれたのに。
「素直になれないって、損ばっかり」
皆みたいに女の子らしくなんて、剣道始めた頃から捨てている。
学年は一つ下で、すごくかっこよくてモテる沖田くんが私を見てくれないなんて、そんなこと分かってる。
だからこそ、あの誘いに乗れば良かった、という後悔が押し寄せる。
「…うわ、なんか泣きたい」
「泣くんですかィ?」
「は?」
ぐす、と鼻を啜るのとほぼ同時に聞こえた好きな人の声。
慌てて涙を拭い、振り向くと、沖田くんがいた。
「な、なんでいるの?」
「先輩が気になったんでィ」
呆然とする私に駆け寄ってくる沖田くん。
「…、…途中まで送りまさァ」
どうせ家近いし、と付け足すと、私の腕を引いて歩き始める。
「え、と、あの、」
何が起こったかいまいち理解できない私は、何を言えばいいか、何から聞けばいいか必死に思案した。
「私以外の、女子部員は?」
「ああ、土方に任せやした」
えっ、と息が詰まる。
あの子きっと沖田くんに送ってもらいたかっただろうに。
そんなことお構いなし、なんだろうけども。
「あ、ありがとう…」
「…お礼、…あれ、買ってほしいでさァ」
びし、と指差す方向には自動販売機。
それまで駆け寄ると、沖田くんはアップルティーをとんとん、と軽く叩いた。
私は断ることもできないな、と思い、承諾し、財布を取り出した。
「こんな安いのでいいの?」
「十分でィ」
へらりと笑った沖田くんはとても魅力的だった。
「はい、これ」
さっ、とアップルティーの入ったペットボトルを差し出した。
が。
「あー、と。半分だけでいいんでィ。」
「え、」
持って帰ればいいのに、と思いつつ、どうすればいいのか思案してみる。
「みょうじ先輩が半分飲んでくだせェ」
沖田くんの口から発された言葉に、思わず私は耳を疑った。
「わ、私が?でも、そしたら…」
間接キスになっちゃうじゃん、と言おうと開きかけた私の口は、沖田くんの口によって塞がれていた。
「ん…っ、」
再び呆然、というか頭の中が真っ白になる。
何も考えられない。
「別に普通にしちゃっても良かったんですけどねィ」
鈍いから気付かないと思ったのに、と話す沖田くんの顔を見れなかった。
「好きでさァ、みょうじ先輩」