novel

□境界線
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「あれぇ、乱菊やないの」


久し振りに名前を呼ばれたのは街中だった。









────────ーー境界線ーー───────





「久し振りやなぁ? こうやって話すん」


にこにこしながら私に近付く。
久し振りの近い距離。


「お久し振りです、市丸隊ちょ…」


「堅苦しいわぁ… 今は勤務時間やないんやし、普通でえぇよ」


「……判ったわ」


近すぎて変に緊張する。
上手く話せない。

いつ以来かしら。
…笑顔で話せなくなったの。








「…なんでこんな所に居るのよ? 隊長はそんな暇じゃないはずだけど」


「あぁ…イヅルが良ぉ出来る子やから任せてきたんよ」


「……吉良も大変ねぇ…こんな上司持っちゃって」


精一杯の毒づき。
笑ってるかしら?


「何言うとんのー ボクかて仕事位ちゃんとやってるで?」


けたけたと可笑しそうに笑ってる。
その笑顔が昔のままで少し安心した。


「乱菊こそ駄菓子屋覗いて何やっとるん?」


「私は隊長に甘納豆頼まれて…」


ふと目に留まったものがあった。
けどすぐに目を逸らす。
考えた訳じゃなくて、体が勝手にそうしたようだった。


「日番谷隊長、甘納豆好きやもんねぇ」


またけたけたと笑う。
何か、胸が苦しい。


「…私、直ぐに帰らなきゃ。 今日締めの書類まだあるし」


そそくさと勘定を済ませて外に出る。
近くに居たら胸がもっと苦しくなる気がして。


「ちょお、乱菊、これ」


少しだけ慌てて出てきたギンの手元には私と同じ紙袋。


「これ乱菊にあげるわっ」


「えっ、ちょ…ギン!!」


ギンの手元にあった紙袋が空をくるりと舞うと真っ直ぐ私の手元に落ちてきた。

ぱっと視線を元に戻すとそこにギンの姿は無かった。


「何なのよもう…」


さっき渡された紙袋。
中身が気になって開けてみる。


「………ギンの馬鹿…」


紙袋の中身はさっき目に止まった干し柿が沢山。

私とギンの好きなもの。
もしかしたら、たった1つの共通点かも。

だから目に止まった。
だからすぐに目を逸らしたのに。


「─…ばれてたみたいね」


貰ったばかりの干し柿を一つ頬張る。




「やっぱ美味しいわ、干し柿」











貴方と私の境界線。
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少しずつ、距離が、縮まれば良いな。








_fin_

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