B O X - 1
□ジレンマ
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何でも話せた
本当に、何でも話せたのよ
任務の話、お菓子の話、今日見た夢の話、悩み事も。
それこそ、恋の話だって
でもね、だからこそ
『好き』だけが、言えなかったの。
ジレンマ
「海が見たいなぁ‥」
任務の帰り、昼下がりの港町の駅前。
今まで『怪物』と戦ってました‥なんて、本人達でさえ忘れてしまうような、陽気。
少し湿った潮風が、やたらに気持ち良い。
列車の切符を買おうとする目前、私はぽつり、呟いた。
「‥そんな女の子らしい事言う奴だったっけ?」
擦り剥けた頬をあからさまに歪ませて、ラビは言った。
「いいじゃん別に!言ってみただけ!」
私はそう言って。
そこで待ってて、とさらに言い放ち、駅員に歩み寄った。
そう、言ってみただけ。
今日は、久しぶりに彼‥ラビとペアの任務だった。
それを聞いた時‥私の心は非道く高鳴った。
私は、彼が好きだったから。
ペアを決めた室長に、少しでも感謝の気持ちを‥と、完璧に自己満足でコーヒーを煎れてあげたのが、昨日の夜。
早朝出発してこの駅に下り立ったのが、『お早よう』でも『今日は』でも通用する曖昧な時間帯。
それから『敵』を倒して、でも『目的のモノ』は無くて。
ちょっとした落胆を抱えて、また本拠地に戻るべく列車に乗ろうとしているのが、昼下がり。
つまり、彼と私の二人旅(なんて不謹慎だけど)は、それこそ丸一日は疎か半日にも満たないモノ。
だから‥ちょっと、駄々を捏ねてみたかっただけ。
別に『海が見たい』じゃなくたって、ケーキが食べたい、でも映画が観たい、でも何だって良かった。
どうせ、叶うはず無い我儘なのだから。
昨夜と一転して、何でこんな簡単な任務押しつけたのよ、と、心の中で室長をなじりながら。
私は駅員に声を掛けた。
「黒の教団ですが‥」
「すんませーん、海ってどっちっスか?」
私はぐっと押し退けられて。
よろけて反射的にラビの腕を掴みながら、その言葉を聞いた。
「ありがとうございまっす。おら、しっかり立てぃ。」