B O X - 1

□世界を止めて
1ページ/2ページ

ふと気付いたら

こないだまで蕾だった窓辺の鉢植えが

花を付けていて。


私が居なくても花は勝手に咲くのか、と


非道く虚しかった。




世界を止めて




任務から戻るなり、私はシャワーを浴びて食堂へ向かった。
体は重く軋んでいたし、眠気から来る頭痛は酷かったけれど。

愛しいあの人の姿を何よりも身体が望んでいた。


しかし、そんな思いとは裏腹に、其処に彼の姿はなく。
部屋へ引き返そうとした私の足に、落胆と空腹が重くのしかかった。

幸いにも人は疎らで、すぐに馴染みの料理長にお気に入りのメニューを頼み、私はそれを手に適当な席に座った。

相変わらず頭は、鈍痛に睡眠を催促されている。



「帰ってたのか?」



不意に背後から掛けられた声は、睡魔は疎か全ての疲労を忘れさせるには十分なモノ。


「あぁ、神田。久しぶりだね。」


それでも平然を装う私の隣に、彼は無造作に腰掛けた。
その無造作さからは、其処に落ち着く気など無いことが分かって、少し淋しかった。


「怪我、したらしいな。」

「大した事無いよ。」


誰から聞いたの?と言いながらちらりと目をやれば、いつもと同じ何だか良く分からない顔をして彼は私を見ていた。

それでもやたらと整ったその顔を、直視することが出来ずに、私はいつものように素っ気ない風に目を反らす。


どんなに愛しく思おうと、どんなに焦がれようと、それは確実に一方通行で、それを彼に気付かれる事は、とても恐ろしい事だった。

人と殆ど相容れようとしない彼が、自分には多少は対等な目を向けていることは感じていた。


だからその関係を崩したくなかった。


だけど。


もう、押さえられない所まで来てしまっている。

歯止めの利かなくなる寸前のレベルに気持ちが達しているのは良く分かっている。

いっそ、伝えてしまおうか?

でも、今の関係を壊したくない。


‥結局、堂堂巡りなのだ。


次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ