ごく/せん
□未来への旅路
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「―――――行ってくる」
アナウンスの案内が流れ、慎は揺るぎない瞳でそう言った。
「ああ」
「―――慎!」
「…………慎ちゃん…………」
内山は慎としっかりと視線を交わし、力強く頷き。
野田は感極まって言葉に詰まり、熊井は既に涙声で慎の名前を呟く。
「―――――」
南は言うべき言葉を見失っていた。
「―――――しっかり頑張って来いよ!一度決めた事だ、最後まで貫き通せ!」
搭乗口へと足を向けた慎の背中に久美子はそう叫んだ。
その声に慎は一度だけ振り返り、フッと彼独特の口の端を上げる笑みを浮かべ、右手を上げた。
その後はもう、まっすぐに前だけを見据えていた。
慎の姿が見えなくなるまで、ただずっと皆立っていた。
その場を動けなかった。
久美子は―――それしか、言えなかった。
他にも言おうと思っていた事はいっぱいあった筈なのに、何故だか胸がいっぱいで、苦しくなって言葉が出て来ない。
―――――この、訳の解らない焦燥感は何だろう?
どうしてこんなに?虚しいんだろう?
「―――――んじゃ、帰るとしますか!」
寂しさの滲んだ、けれど毅然とした声で内山が仲間達に号令を掛けた。
慎がいない場では、それは内山の役目だから。
「―――――うん……」
慎の幼なじみでもある熊井は付き合いの長い分、感慨深いのかも知れない。
―――まだ、空を…………慎の乗った飛行機が小さくなって行くのを見付めている。
「大丈夫かな……慎のヤツ……言葉の心配はいらないだろうけど、……不器用だもんな……」
上手く他の人達とコミュニケーション取れるだろうか?と人付き合いの得意な野田らしい心配。
「―――だよな。慎はホントに打ち解けるまで時間掛かるもんな」
南もまた、野田と同じ事が気になった。
「―――――大丈夫だよ、きっと。そう言うの含めて、変わろうと決めて慎はアフリカまで行く事にしたんだから、さ」
「「「………………そう……だな…………」」」
―――――きっと、彼等のリーダーは、一回りも二回りも、想像を越えた成長を遂げて帰って来るに違いない!と彼等は思った。
そして、心に誓っていた。
慎がいない分、帰って来るまでは―――、慎の代わりに、代わりにはなれないけど、
破天荒な担任と妹のなつみのフォローは出来るだけしよう、と決めた。
「―――ヤンクミ!どうした?帰るぞぉっ」
立ち尽くしたままの久美子に南が訝しげに、態とらしい元気な声で急かした。
「あ、―――悪りぃ悪りぃ、帰るか!」
―――――胸の中にぽっかりと空いた、大きな穴は何なのだろうか?
久美子は解らなくて、こんな時、何時も答えをくれる隣を仰ぎ見て―――愕然とした。
何時も答えをくれた、何時も隣にいた〃彼〃はもういない―――のだと。
こんなにも、何時も頼ってしまっていたのだと、漸く気が付いた。
この虚しさは、寂しさは全て沢田慎が隣にいないから…………。
―――――気が付かなかった……。
やっと、解った―――――。
この気持ちの名前―――――。
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2011.07.12.
慎のお見送り、3Dの他の生徒達も皆来たがっていたのだが、全員で行くのは方々に迷惑を掛けると、4人+久美子になったようです。
この後久美子は何でもない振りして帰って、部屋で一人ボロボロ泣きました。心配させないよう声を殺して。(こんな所に書くなっ、て……済みませんm(__)m)