探偵と怪盗

□恋愛感情−-擬似片想い-−
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  †恋愛感情―擬似片想い―†




 何時も追い掛けていた背中がある。





 彼は謎に満ちた存在で、どんなに追い掛けても、届きそうで届かない白。
 冷涼で凜とした気配を纏い、華麗で優雅な立ち姿。

 魅せられるマジックは瞳が離せない、惹き付けられる。
 気障でとんでもなくお人よしな白い鳥。


 『彼』は何時だって『特別』な存在で、誰もが夢中になる稀有な月下の魔術師。


 初めて会った時、彼に言われた言葉に頭に来て腹が立ってあんなふざけた奴「絶対っっ!俺が捕まえてやる!!」監獄に叩き込んでやる、
………そう思っていたのに……。何故だろう?
 何時の間にか感情のベクトルが変化し始めて、説明の付けようのない不可外なこの感情を、何と呼べば良いのか?


 ………考えたり等しなければ良かった。


 考えたりなんかするから―――間違った答えに行き着いてしまった―――。



 この思いが間違えようもない『恋愛感情』であると―――。



 その答えに行き着いてしまったのは、交わる筈のない二人の距離がちょっとしたきっかけで縮まり出して、言葉を交わす機会が増えたから。
 少しづつプライベートな会話が交じり、何時の間にかそれが楽しみで現場に行くようになった。
 何よりも撃てば響くようなテンポの良い会話と、どんな話しでも付いてくる知識、そしてお人よし過ぎる程の優しい気性がストンと俺の中に嵌まり込んでいた。


 優し過ぎる白い鳥は、知れば知る程謎ばかり。
 色んな事を考えているようで、考えていないように見えたり………、深いのか浅いのか訳が解らない男だ。





 ―――――でも、一番訳が解らないのは、『俺自身』だ。
 俺にだってそれなりの人生設計があった。
 黒の組織を潰し、元に戻り、蘭と付き合って大学を出て、いずれはそのまま結婚するのだろう、と漠然と思っていた。
 全て終えて、やっと新一の姿を取り戻した時気付いてしまった。
 蘭をもう―――恋愛対象と見ていない事に。

 ―――違う、蘭じゃない!

 と……、新一の姿で蘭と向き合って感じたのはそれだけだった。

 その時は………。



 なのに―――、まさかよりよって『怪盗』にそんな感情を抱いてしまうなんて……。

 思いもしなかったんだ―――。

 それなのに―――こんな事になってしまって新一はどうしたら良いのか解らなくなるくらい困惑していた。
 なまじ距離が近付いてしまったから、思いが加速し始めてブレーキが利かない。
 間違っている気持ちだから知られてしまう訳には行かない。
 なのに、必死に抑えよう、閉じ込めようとする程思いは深まるばかりで。
 新一は毎日が苦しくて、気が狂いそうだった。
 手を伸ばさなくても肩が触れ合うくらいすぐ近くに素の『怪盗』がいる。
 ほんの一年程前なら考えられないくらいに。
 『今』が嘘なんじゃないかと思えるくらいに。


 ―――それでも、今……すぐ隣に感じる温もりは偽りじゃなくて、電話も頻繁に掛かって来る。
 それどころか、二人で遊びに出掛けたり、家に泊まりに来たりと、新一には信じられない事の連続で、気持ちが追い付かない。

 これが嘘でも夢でもなく、現実なんだと信じ切れない。
 自分の立場が彼の立場が、戸惑いを産む。
 何時まで傍にいる事が許されるのだろうか―――?


 現場で見せる不敵なモノじゃない、本物の笑顔で「新一―――」と呼ぶ彼の声に新一の鼓動は反応する。
 煩いくらいドクン、ドクン、と鳴って新一の動きを止める。

 この想いが実る筈のないもの(実らせてはいけないもの)だと知っている。
 間違っている……正しくないものだとしても、それでも急に想いは止められない。正せない。


 理屈じゃないのだ。


 ただ心が―――好きだと叫んでいる!!


 距離が近付いたから、それだけで満足だ、何て言えない。
 最初はそう思っていても、どんどんワガママになる。
 もっと近付きたい、傍にいたい、見詰めて欲しいと―――。




 ………それがどれ程に難しい事か解っているけれど………。



 それでも彼へと向かってしまう心を止められない―――。





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