ごく/せん
□師匠と呼ばせて下さい!!
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▽ 師匠と呼ばせて下さい! ▽
「なぁ、次の駅で良いんだっけ?」
休日の昼間の電車の中は、それなりに混雑していて恐いモノ知らずの黒銀5人組と言えど、話し掛ける声は心持ち控え目だ。
矢吹隼人は確認の為、そう問い掛けた。
「ああ」
隼人の問いに日向は相槌を打って答えた。
「で、どんな女の子なの?」
「ファミレスでバイトしてる、って言ってたっけ?その娘」
大きな瞳を更に大きくさせて、キラキラと興味津々訊ねる武田と確認の為、日向へ問い掛ける土屋の言葉に日向が照れながら口にする。
「そう、なつみちゃん♪一コ上なんだ。可愛いくて優しくて、特に笑顔がメチャメチャ可愛いんだよ♪」
みんなの話ししたら、「一度会って見たい」って言うからさぁ、とニヤケタ顔で口にする日向に小田切竜が辛辣な一言を口にする。
「そのなつみちゃんは今日シフト入ってる訳?」
竜の言葉に一瞬日向の表情が固まり、首を傾げる。
……つまりは知らない、と言う事である。
「お前ちゃんと確認しとけよ!肝心のなつみちゃんがいなかったら話しになんないじゃん!しっかりして下パイ!!」
迂闊な日向に隼人が切り込み、
「お前どっか詰めが甘いんだよ」
土屋が塩を塗り込む。
―――だから未だに片思い、友達止まりなんだよ!と、これまた辛辣な一言である。
卒業まで後一ヶ月弱と迫った二月の上旬、暢気な話しである。
「−−−おい!アレ!?!?」
突然の竜の緊迫した声に、四人揃って竜の指す方を見る。
そこには赤い顔をして俯く少女。
「…ねぇ…もしかして…痴漢?」
確信は持てないのか、半疑問系で武田が恐る恐る口にした。
少女の背後にはサラリーマンらしき中年の男。
混んでいる、と言っても少々不自然過ぎる程近い位置。
少女を助けようと、五人が人波を掻き分け近付こうとしたその時―――、一人の男がサラリーマンの腕を捻り上げていた。
自分達と歳の変わらないだろうその男が、サラリーマンに何かを言っていたが、生憎と五人の位置からでは何も聞こえなかった。
男の言葉に反論し、逃れようとサラリーマンが暴れるが―――男は腕を掴んでいる片手だけでびくともしない。
「―――カッコイイ!!すごくない!?あの人全然びくともしないよ!」
「それにメチャクチャイケメンつーか、美形じゃねぇ」
謎の男の姿に、興奮露に武田がまくし立て、土屋が驚愕混じりに武田に続く。
イケメンなんて軽く現すのもどうかと思う程、
―――整った容貌、均整の取れた体型、瞳の強さ、彼の持つ独特のオーラが、気軽に話し掛けられる雰囲気ではない。
「本当すっげーカッコイイ!!美形!俺初めて見たかも、一般人で隼人や竜より良い男と思える人!」
武田と土屋に続き、日向までもが、謎の男に称賛を送る。
電車がホームへと到着し、男はサラリーマンの腕を掴んだままホームへと引きずり下ろす。
少女も男とサラリーマンの後に続いて下りる。
少女の顔が赤く染まっているのは、恥ずかしさのせいだけではない筈だ。
騒ぎを聞き付け駅員が駆け付けてくる。男がサラリーマンを駅員に引き渡し、少女も駅員に何事かを告げていた。
駅員に引きずられサラリーマンが消えた後、少女が男にお礼を告げているようだが男は軽く首を振って背中を向けて行ってしまった。
その背中を少女は何時までも見付めていた。
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2011.07.02.
*加筆修正*
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