ごく/せん

□チョコレート協奏曲
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  ☆☆☆協奏曲☆☆☆



 放課後の黒銀で、帰宅するそぶりも見せず何時もの五人組…否、四人が顔を突き合わせ盛り上がっていた。

「俺は三つかな」
「俺もそんくらいじゃねーかな?」

 土屋が数を口にし、日向も続いて同意する。
 因みに何が三つか、と言うと…バレンタインだ。チョコレートの数である。

「情けねーな!」
「そうゆう隼人はどーなのさ」
「十は固いね」

 土屋と日向の答えに隼人が情けない、と嘆き、そんな隼人に武田がちょっとだけムッとして言うと、得意げに隼人が答えた。


「何がだ?」


 楽しそうに盛り上がっている彼等に、見回りに来たらしい久美子が武田の後ろから顔を突っ込んで、声を掛けた。

 盛り上がっていた四人と、我関せずと一人雑誌を読んでいた竜も、突然現れた担任教師に一瞬時間が止まる。


「!?!?!?だ〜か〜らぁ〜〜〜〜突然出てくんなって何時も言ってんじゃん!!」
「突然じゃないぞ、ちゃんと『お前らまだ残ってたのか』って声掛けたぞ」

 ドキマギする心臓を押さえ、隼人はもう何度言ったか解らない言葉を再度口にした。

 久美子は気付かないお前等が悪い、と言い切り、「で、何のしてたんだ」と、きょとんとして重ねて聞いた。

「チョコレートだよ!明日バレンタインだし、いくつ貰えるか大予想!」

 久美子の問いに武田がニコニコ笑顔で答えた。

「ふーん、で土屋と日向が三つくらいで矢吹が十か、大きく出たな! 武田と小田切はいくつなんだ?」
「オレはぁ〜〜〜ん〜四つ?五つかな?」

 武田が答えると自然、小田切へと視線は集中する。

 視線の強さと『答えろ!』と言う空気に、竜は嘆息しパタリと雑誌を閉じる。

「―――――くだんねぇ、興味ねーな」
「そう言うと思った。でも毎年ちゃんと受け取ってあげてるよね。何気に実は一番貰ってるし」

 答えようとしない竜に代わって、武田が内情を少しだけバラす。

「そーなのか?」
「うん。去年は隼人が十、竜が十二だった」
「今年はゼッテー俺が勝つ!!!」

 拳を突き上げ隼人が吠える。
 コレも実は毎年の事で、隼人は勝手に勝負事にしていた。

「でもヤンクミには関係ねーよな、バレンタインなんて!!」
「んな事ねーぞ!何時も用意してるぞ!!」

 女の子の告白イベント行事なんて、喧嘩っ早い担任には関係何てある筈ない!と言い切った土屋に久美子は反論した。

「どーせ全部ギリだろ」

 日向は社交事例の一貫だろうと続け、
反論の言葉が来るかと身構えていた五人に、久美子はただ曖昧な笑みを浮かべていた。

「なっ、なんだよ!!隣の九条とか言うセンコーにやんじゃねーのかよ!!!」

 らしくない久美子の態度に隼人は耐えられず、会う度テンションは上がるし、何時も騒いでるだろ、と続けるも久美子は曖昧な表情を浮かべたまま。

「……………九条先生は、素敵な人だし確かに好きだよ。 だけどそれは、人間としてであって恋愛感情じゃねーんだ」
「んじゃ、なんでキャーキャー言ってんだ?本気な白鳥が可哀相じゃん!」

 寂しさを微妙に浮かべ、久美子は呟くようにそう言った。
 そんな久美子に隼人は何故だかムキになって答えを聞こうとする。

「………そうだな。 だけど大人になると色々あるんだよ。一つ楽しみがないと辛くなる時があるんだ」
「―――お前好きな奴いねーの?」

 そんなモノ好きな人がいれば、必要ないだろうと竜が言う。

「―――――仕方ねーだろ、相手がいねーんだから」

 その言葉に武田が哀れみに似た表情を浮かべた。
 好きな人がいない何て、―――寂しいし、ツマラナイ人生だ、と。

「!?!?ちっ、違うぞ!?好きな人はいるぞ!! ただ……、今は日本にいないんだ」
「ヤンクミ置いて行っちゃったの?」
「それも違うぞ。 私が悪いんだ。アイツがアフリカにボランティアに行く、って言った時、頑張れよ!!って背中叩いたのは私だし、
アイツを空港で見送って、飛行機が飛んだ後に気付いたんだ。胸の中にぽっかり空いた穴に……」
「どんな人なの!」

 好きな相手は今、日本にはいない、と答えた久美子に、武田は興味津々と身を乗り出す。

「どんな……って無口で無愛想な奴だったぞ。 でも、仲間や妹の為なら簡単に自分なんか棄てられる熱い奴―――」

 ―――私も随分助けられたんだ。と哀しい笑みを浮かべる。

「―――――早く帰って来ると良いね、その人」

 寂しそうに、けれど、とても―――愛おしそうに話す久美子に武田は心からそう思った。





 愛すべき担任が語る、―――好きな人。



 どんな人?



 ヤンクミの片思い?それとも両思い?



 話題は尽きる事を知らない―――。





 ―――――だが、若干一名、恐ろしく機嫌が悪い。


 ―――隼人である。


 彼は担任にほのかな思いを抱いていたからである。


 隼人が何も言わないのを良い事に、四人は無視を決め込んだ。







 ――――――触らぬ神になんとやら、だ。





END


 ◇◇2011.07.01.◇◇


 ◇◇◇加筆修正◇◇◇





 

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