Novel-NL


□Cook☆Cook  Stage:2
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  恐怖のお誕生日会を前に、如何に切り抜けるかを思案する二人組。
 良い案と言えば逃げる事のみ。しかし報復が怖い。思考は何処までもドツボに填り、時間だけが過ぎていく。そして世の中、動かぬ信者に神様は優しくはしてくれないものである。
 ドアが開かれるけたたましい音と共に、二人の心臓は天空城よりも高く跳ね上がった。
「ただいまー」
 間違いなく、アレクの声である。
 恐る恐るドアへと視線を向けると、其処には多少ながら泥に汚れ、満面の笑みを浮かべたアレクが立っていた。大人1人位が楽に入りそうな大袋を三つも下げて。
「あ…お…ぁぁぁ…お帰りぃ〜…」
「あれれ、もうシェリルも来てたんだ。ルッツが呼んでくれたのかい?」
「え?…そっそっそう!たった今呼び出しくらっちゃてさ!!!!」
 暢気なアレクの声とは裏腹に、二人の声は既に恐怖で裏返っている。それもそのはずだ。アレクの足下に転がる袋が元気良く蠢いているのだから。
 暫し二人は立ち上がる事も忘れ、コーヒーカップを掴んだまま呆然と袋を見下ろしていた。
「今日は大猟でねー。10人分は作れそうだよ」
 袋を見るアレクの眼が一瞬どす黒く光った様に見えたのは錯覚だ、きっと。(byルッツ)
「じゃ、昼には間に合う様頑張るからね。二人はそこでお茶でも飲んでてよ」
 言外に「逃げるなよ」と言われた様な気がしたのは気のせいだ…多分…。(byシェリル)
 二人の思惑など露知らず、アレクは張り切って三つの袋を抱えてキッチンに入っていった。それで残された二人が和やかに茶を啜れるかと言えば、それは無理な話で。
 二人顔を合わせて頷くと、キッチンのドアににじり寄り、そっと空けた小さな隙間から中を覗き見る。
 キッチンではアレクが一つ目の袋を開き、中身を半分程シンクにぶちまけていた所だった。
「うっわぁーーー。色とりどりだねぇ…」
 シェリルが頬をヒクヒクと痙攣させつつ呟いたとおり、袋から出てきた何十個も有るキノコ達は紫から黄色まで、まさにレインボーカラー。
「食えねぇヤツだよなぁ…絶対」
 色が派手なキノコは本来毒を持つモノが多い。一部に昔図鑑で見た猛毒マーク入りのキノコも見つけちゃったりして、思わず涙目のルッツであった。
「ねぇ…ルッツ……アレ!奥の袋!!」
 ツツーッと頬に汗が伝わせながら、シェリルが奥に在る残り二つの袋を指差した。袋は相変わらずモゾモゾと動いていて、それだけで十分に恐怖を誘うのだが…しかし。
「「しっしっ触手ううぅーーーーーーー!!!????」」
 袋の口を結わえる紐が緩んだのか、中から深緑色の長い物体Xが飛び出し、窮屈そうにウネウネと動き回っていた。
「あ、コラ!!」
 キノコを煮込むのに集中していたアレクだが、流石に足下を這い出した触手に気が付いたらしい、すかさず出刃包丁を取り出し袋ごと刺し貫いた。
 ザク、ザクっと袋に出刃包丁が刺さる度上がる断末魔の悲鳴。そして飛び散る返り血。
 ドア一枚隔てた部屋には、俯き口を押さえるシェリルと対照的に顔を上げて視線を天に泳がせるルッツ。
「も…あたし吐きそう」
「10回は刺してたなアイツ…」
 棺桶に片足を突っ込んでる自分が見えるのは、きっと幻覚ではない。
 不意に魂を飛ばしつつある2人の前で、いきなり扉が開く。ひょこり頬に返り血を付けたアレクが顔を出すと声にならない悲鳴が上がった。
「???…何してるんだ、二人とも??」
 キョトンと首を傾げるアレクの手に握られた深紅の出刃包丁に、もうルッツは言葉も出ない。
「あの…ね、アレク!あ、あたし仕事有るし!!」
 シェリルももう形振り構ってはいられない。恐怖に引きつる喉から必死に声を絞り出し藁にも縋る思いで訴えた。せめて自分だけでも助かりたい。そんな人の心の弱さを誰が笑えるというのだろう。
 だがしかし。
「そうそう!猟(?)の帰りにダリオさんに会ってね、事情話したら今日は休みにしてくれるって」
 良かったね、と爽やかに笑うアレクに抵抗するだけの勇気はもう湧いては来なかった。
 再びキッチンにアレクが消えた後、ガックリと膝を付くシェリルの肩をルッツは優しく叩く。
「死ぬ時は一緒だから…」
「ルッツ…」
 実際他人を巻き込んでおいて酷い言いぐさだが、逃げ場の無くなった二人の間に奇妙な友情が生まれたのは間違いないようだ。
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