Novel-BL

□クライスレリアーナ<2>
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「起きろよっアレク!!」
 心地よく眠っているアレクを、ルッツは乱暴にベットから蹴り落とした。さすがに目が覚めたアレクは少々頭を打ったらしい、「痛ぅ‥‥」と小さく呻いて、後頭部をさすっている。
「なんだよ、乱暴だなぁ‥‥‥もう少し優しく起こせないのかい?ルッツ」
 怒っている訳では無かった。口元は笑っている。
「うるせーっ!!大体、人のベット占領しておいて何言ってんだよ!」
 ここでアレクのペースに乗せられるわけにはいかない。どうしても聞かなければならない事があるのだ。ルッツは拳を握りしめてアレクを睨み付けた。
「なんで黙ってたんだよ?」
 ただそれだけではアレクも答えようがない。まあ大体の検討は付いてはいるのだが。
「何の事?」と平然と聞き返すアレクにルッツはつい怒鳴ってしまった。
「アンリエッタとの婚約の事だよ!!本当なのかよ!?」
「ああ、その事か。もうこんなトコにまで噂になってるんだ?さすがはロシフォール家だよね。本当さ。まだお披露目はしてないけど、一週間程前に正式に婚約したんだよ」
 にべもなく答えたアレクは左手の薬指にはめた指輪を見せる。それは昨夜は身につけてはいなかったはずのものだった。まるで頭を殴られたような衝撃をルッツは受ける。
 別にアンリエッタと婚約したことがショックなのではなかった。幼なじみの親友として、友の婚約は喜ばしい事のはずなのだから。昨夜の事さえなければ‥‥‥‥。
「黙っていたことなら、ルッツだってお互い様じゃないか」
 意外なことを言われルッツは面喰い、そして気付く。今、アレクは表情こそ笑っているようだが、瞳は少しも笑ってはいない。
「ルッツだって、サシャ村を出ることなんて一言も言ってくれなかっただろ。しかも北スラートに住むなんてね。」
 その言葉にルッツは額を押さえた。昨日ずっとアレクが怒っているように見えたのは間違いでは無かったのだ。
「なんだよ‥‥やっぱり怒ってたんじゃねーか‥‥」
 しかし、ルッツにも言い分はある。ハンターとして世界各地を転々としているアレクに、どうやって連絡を取れというのだ。アレクがこの三年間でサシャ村に帰ってきたのはたったの二回。それも三日と居なかった。少なくとも自分は内緒にしておこうとしたわけではないのだ。一応ギルドに手紙を託したし、アレクがサシャ村に帰って来たときにでも姉から伝えて貰えばいいと思っていた。
「じゃあ、怒ってたからあんな事したのかよ!?婚約者がいるのに何にも言わないで、どうして‥‥あんな事‥‥出来るんだよ?」
 問い質すのにはかなりの勇気が要った。口に出すだけでも顔が真っ赤になってアレクと目が合わせられない。

 夕べ、アレクに無理矢理と言ってよい程の強引さで身体を開かされた。勿論、抵抗したがハンターとして修羅場をくぐってきたアレクに力で敵うはずもない。
 しかも襲われている本人よりも辛そうな顔をしていたアレクにとうとう最後にはルッツは抵抗を止めてしまったのだ。理由も無しにアレクがこんな事をするはずがないと覚悟を決めた。
 今は只、アレクの気の済むようにすればいいと‥‥‥‥‥。
 その後はもう無茶苦茶だった。思い出しただけで顔から火を噴きそうだ。それでもルッツはアレクを許せると思っていた。婚約した事を聞くまでは。

「お前、アンリエッタに済まねぇとか思わないのかよ!?婚約者なんだろ?いつか結婚するんだろ!オレの知ってるアレクはこんな裏切り行為みたいな事をする奴じゃなかった!!」
 そして自分も裏切られたと、悔しさで涙が滲んできそうだ。しかしそんなルッツをみてもアレクは眉一つ動かさない。
「別に僕だってずっと秘密にしておくつもりは無かったよ。だけど婚約したなんて言ったら、絶対抱かせてくれなかっただろ?」
「なっ‥‥‥!?」
 思わず耳を疑うような言葉だった。これが本当にあのアレクだというのだろうか?ルッツの知っているアレクは、少なくとも自分よりは色事に疎く、純情な少年だったのに。
「ねえ、ルッツ‥‥‥」
 アレクは立ち上がりルッツに近づく。ルッツは反射的に後ろへ下がるが壁に当たり阻まれてしまう。
 両側に手を付かれ、壁とアレクの間に挟まれたルッツはもう逃げることが出来ない。それ以前にまるで蛇に睨まれた蛙のように身体か竦んで動けなかった。
「ルッツの知っている僕ってどんな人間だったの?お前はは本当に僕の事、理解していたのかな?」
 ルッツはもう答えることもできずに首を振るばかりだった。アレクはゆっくりとルッツの耳に唇を近づけて囁いた。
「ルッツ‥‥夕べは‥‥」
 囁かれたとたんにルッツは床に座り込んだ。両手で顔を覆ってもうアレクを見ようともしない。だが耳まで真っ赤に染めたルッツを満足そうに見やり、アレクは部屋を去った。
「また来るよ」
 一言、言葉を残して。


 (夕べは‥‥気持ち良かった?)
 信じられないアレクの言葉。一体この3年間で彼の何が変わってしまったのか?
「お前、何考えてるんだよ?」
 もうどうしたらいいのかわからない。座り込んだまま頭を抱える。すでに日は高く昇り始め、町には活気が満ち始めたが、ルッツにはその喧噪がまるで別の世界の出来事の様に感じられた。


TO BE COUNTED

2011.11.27:改稿

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