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伝わってればそれでいいんです
「……女性に人気のロールケーキ、か」
洋菓子屋のパンフレットを片手に呟く。
俺たちのゲーム中の茶菓子は、いつもロノウェの用意するクッキーだった。でも、いくらおいしいとはいえ、毎回同じものではさすがに飽きる。そこで、他においしそうなお菓子はないかと探すことにした。
あいつも……ベアトリーチェも、たまには違うものを食べてみたいだろうしな。そんなことを考えている自分に気付き苦笑する。
基本的に直感でものを決めるから、じっくり考える買い物は得意じゃない。でも、ベアトの喜ぶ顔を思い浮かべながらあれこれ考えるのはとても楽しかった。
あいつは倒すべき敵なのだから、気遣ってやる必要など全くない。そう分かっていても、あいつは何が好きだろうか、どんなお菓子なら喜ぶだろうか、などと考えてしまう。
……それでもいいのかもしれないな。いくら対戦相手だといっても、ずっといがみ合っているだけでは気分が悪い。たまには和やかに交流をすることも大切だろう。
あいつを喜ばせたい。少しずつ歩み寄りたい。素直にそう思った。
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「っていうのを考えたんだけど、どう?」
「どう? じゃねえよ。わけが分からん」
魔女の喫煙室にて。私のそんな創作を聞いて、戦人が呆れたような表情を浮かべる。
個人的には自信作だったので、少し悔しくなって反論する。
「今まで色々あったけど、戦人がベアトに尽くすっていうシーンがなかったじゃない。もっとあんたは恋に溺れるべきだわ! ていうか、せっかくこのラムダデルタ様が考えてあげたのに、その言いぐさはなんなのよー!」
「妄想を頼んだ覚えは全くないんだがな……そもそも恋に溺れろってなんだよ、愛の悪魔かお前は」
「違うわよ! ただね、最近気付いたの。愛は世界を変える、愛があれば乗り越えられない壁なんてないって!」
「少女漫画の読み過ぎじゃないか? それ」
戦人の冷めた口調に、なんでそうなるのよ、と頬を膨らませてみる。そんな私を見て、軽くため息をつくと、戦人が呟くように言った。
「……別に、傍から見て尽くしてるように見えなくても、心の中ではちゃんと思ってるからいいんだよ。きっと気持ちはベアトにも伝わってる」
恥ずかしくなったのか、気まずそうに目を逸らす。真面目な返答が返ってくるとは思っていなかったので、少し驚く。
でも、正直シリアスな空気は好きじゃない。あえて茶化すように返すことにした。
「……なるほど、今流行のツンなんとかってやつね」
「なんでだよ! 今の言葉のどこにそんな要素があったんだよ!」
「ベアト好き好き、でも恥ずかしくて言葉にできないよー、つい素気なく接しちゃうよーってことでしょ? なんとかデレと言わずに何と言うのよ」
「違うだろ! ていうか、なんとかって伏せてる意味ないだろそれ!」
「なんのことかしらー」
真っ赤な顔で、俺はノーマルな人間だ! と主張する戦人。実に良い反応、これだから戦人弄りはやめられないわー、と内心で呟く。
「おい、さっきの絶対ベアトには言うなよ! 言ったら怒るぞ!」
「あーはいはい、分かったわよ」
面白いことになりそうだから、あとでちゃんと伝えておこう。ベルンからトラブルメーカーって称されるくらいにはいい子なんだからね、私。
「戦人がデレてるところも一回見てみたいわー!」
「だからそういうのじゃないって言ってるだろ!」