隣にいる者1

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「くしゅん……あー」
『大丈夫ですか?』
「熱い」

昨日雨の中を傘もささずに走り、
加えて直ぐに乾かさずに碁を打っていたせいか、
ヒトミは風邪をひいてしまった。
病院でただの風邪だと診断され、
薬をもらいベッドに転がっている

『どうしましょう。凄く辛そうです』
「ただの風邪で、39度を超えるなんて
思ってなかったな……軽い熱なら
無理してでも……学校に行っていたのに」
『無理は駄目です!そんなこと言うなんて、
今日は学校で何かあったのですか?』
「んー、塔矢のイジメ」
『あっ、そう言えば塔矢は囲碁部で
イジメを受けていたのでしたね。心配です』
「そうだねー」
『ちょっとヒトミ!?適当すぎませんか!』
「うっ……あまり、そばで騒がないで」

喉が痛く、声が出にくい。
頭も痛くガンガンしているのに
佐為の大きな声で、余計に痛くなる。
佐為に心配をかけないようにと一生懸命話していいたが、
熱でボーっとしてしまい、考えることができない

『そんなに辛いのですか?』
「…………」
『ヒトミ?』
「…………」
『ヒトミ、聞こえていますか?ヒトミ!』
「……う、ん」
『意識をしっかり!』
「……寝させてよ」
『駄目です!死んでしまいます!』
「風邪じゃ……死なない、わよ」

佐為の騒いでいる声がどんどん遠くに聞こえ、
眠れそうになったとき、インターホンが鳴った。
起き上がる気にもなれず、そのままでいたら再び鳴ったので
重い体をなんとか起こし、玄関までゆっくりと歩く

『いったい誰でしょうか?』
「んー」

ドアをゆっくりと開けると、そこに見えたのは
おかっぱ頭の海王中の制服を来た男の子だった

「ヒトミちゃん、大丈夫?」
「と、や?」
「うん。塔矢だよ」
「……帰って」
「駄目だよ。一人じゃ何もできないでしょ?随分辛そうだし」

勝手に家の中に入ってきた塔矢を
どうすることもできず、黙って扉を閉めた

「薬は飲んだ?」
「……うん」
「熱は?」
「……うん」
「……キミの名前は?」
「……うん」
「はぁ、寝るよ」

何を聞いてもうんとしか答えないヒトミに肩を貸し、
ベッドに寝かせた。そしてヒトミはすぐに寝てしまった











































「……ん」

眩しい太陽の光でヒトミは目を覚ました

『ヒトミ!もう大丈夫ですか?』
「うん」

目に涙をためて聞いてきた佐為に笑顔で返答する。
あれほどの熱はもう下がったようで、すっかり元気だ。

『よかった。塔矢のおかげですね』
「あ、塔矢」

そういえば塔矢が来てくれたんだっけ。と思い出し、
もういないだろうと思いながら
部屋の中を見ると机に伏せて寝ている塔矢が見つかった。
ヒトミの記憶にはないが、アキラはおかゆを作り
食べさせた後、しっかりと薬も飲ませ、
ずっと苦しそうなかおりの看病をしてくれたのだ。

「ありがとう」

アキラ布団をかけ、シャワーを浴びて汗を流し、
まだアキラが起きる気配がなかったのでご飯を作った。
材料がほとんどなかったので
サンドイッチになってしまったが、仕方がない

「塔矢、起きて」

十分に可愛い寝顔を堪能してから声をかけた。
大きな瞳がヒトミを捕らえるがまだ焦点が合っていない

「おはよう」
「ん……ヒトミ……?」
「うん。ヒトミだよ」
「……!もう熱は大丈夫なのか?」

完全に目が覚めたアキラは
凄い勢いでヒトミの肩を掴みながら聞いた。
この行動からわかるとおり、
とても心配していたのだ。
昨日、学校の囲碁部で嫌なことがあって
疲れているにも関わらず、
ずっと看病をしてくれたアキラには感謝してもしきれない。

「うん」
「よかった」
「ありがとう」
「傘を置いて学校を飛び出すからいけないんだ」
「あはは、それよりちょっと早いけどお昼にしようよ」
「お昼?」
「今11時50分よ」
「……学校」
「ごめん」

今日は平日なので、通常通り学校がある日だ。
自分のせいで夜中も看病をさせ、
加えてアキラが学校に行けなかったので、
謝ることしかできず、頭を下げた

「いや、ちょうどよかったのかもしれない」
「どういうこと?」
「昨日学校で色々あったから、
ゆっくり気持ちを整理したかったんだ」
「そっか」

何があったのかは聞かずに、
自分の作ったサンドイッチを食べる。
アキラにも勧めて全てを食べ終わった時、アキラが話し始めた

「百害あって一利なし」
「どうしたの?」
「部長に言われたんだ。
ボクの存在は囲碁部には百害あって一利なしって」
『なんですかそれ!』
『囲碁部の人たちの気持ちを考えたら、何とも言えないのよ』
『そうなんですか?』

怒り出した佐為を落ち着かせてからアキラを見る

「そう言われるのは仕方ないわね」
「ボクは葉瀬中の進藤ヒカルと
勝負をしたくて囲碁部に入った」
「進藤ね」
「そういえば、いつ進藤と知り合ったんだ?」
「ちょうど進藤が塔矢に打たないって言ったときだね。
私が落とした定期券を拾ってくれたんだ」
「そうか……ヒトミも進藤も
どうして学校の囲碁部に入るんだ!」
「え?」
「ボクとの対局も避けるし」
「……」
「最近は囲碁サロンに来ないし、
やっと来たと思っても打ってくれないし、
それに、学校でせっかく先生が打てと
おっしゃって下さったのに、断ったじゃないか!」
「言ったでしょ。塔矢とはもう打たない」
「……っ」

アキラが黙ってしまい、ヒトミも閉口する。
暫く俯いているアキラを見ていると、
立ち上がり、帰ると言ったので
看病してくれたお礼をして、見送ったのだった

「ごめん」
『ヒトミ…』
「大丈夫、心配しないで」

呟いたごめんという言葉は佐為には届いてしまったので
心配させまいと、笑顔で大丈夫と伝える
しかし、その笑顔は笑顔と呼べるものではなく
余計に佐為を心配させてしまったことに
ヒトミは気付かなかった





2015/01/26


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