隣にいる者1

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「あ、ヒトミちゃん。いいところに!」

囲碁サロンに入った瞬間
市川が嬉しそうに話しかけてきた。

「どうしたの?」
「実はね、友達と行く約束をしていた
映画の前売り券があるの。
友達とうまく予定が合わなくて
行けないから、ヒトミちゃんにあげるわ」
「映画ねー」
「アキラくんと行ってきなさい」
「塔矢と?」
「そう。もうアキラくんに
2枚ともチケットは渡してあるわ。」
「……さすが市川さん」
「でしょ!」

なんの断りもなしに
アキラとヒトミが映画に行く約束をした
市川に、ため息が出る

「どうせ明日はヒマでしょ?行ってきなさい」
「わかったよ」

(受かったら、来月からは
院生研修が始まるから
ゆっくり遊べるのはもうあまりない。
塔矢と遊ぶのも悪くないか)

「私が買ってあげたワンピース着なさいよ」
「えー」
「えーじゃない!」

こんな会話があり、
今日はアキラと映画を観に行く日。
市川に買わされたワンピースを見に纏い、
余裕を持って家を出る。

『眠そうですね』
『何時まで起きてたと思うの。3時だよ』
『だってヒトミが
今日はあまり打てないってって言うから』
『そうだけどさ』

睡眠時間4時間は
12歳の子供の体にはツラい。
佐為と話しているので寝ずにすんでいるが、
映画を見ている間に寝てしまいそうだ

『寝たら起こしてね』
『わかりました』
『それにしても何の映画なんだろう?
チケットは塔矢が持ってるし、
市川さんは教えてくれないし』

お楽しみよ。と言って
キレイなウインクをくれた市川に
なにを聞いても無駄だと観念したため
何も映画の内容は聞けてないのだ

『あの、映画とは何ですか?』
『うーん、テレビを大きくしたやつ。原理は違うけど』
『あの箱を大きくですか?』
『箱じゃないんだよね。まあ、見ればわかるよ』
『そうですね』

佐為と話ながら待ち合わせ場所に行くと、
既にアキラがそこにいた。

「おはよう、早いね」
「おはよう。早く目が覚めたんだ」
「そう。じゃあ、早速行こうか」
「ヒトミ」
「何?」
「今日の服装可愛いね」
「ありがとう」

いちいち友達にもこういう気が使える塔矢は
女の子に好かれるだろうな。
と思いながらヒトミは笑顔でお礼を言ったのだった。


































「ヒトミ?」

映画を見ている最中に左肩に重みを感じたアキラは
その理由を探すために横を見ると、
ヒトミの頭がそこにあったので声をかける。
しかし、反応はない

『ヒトミ、起きてください!ヒトミ!』

佐為がヒトミを起こそうと頑張っているが、
全く起きる気配がない

(市川さん、ヒトミに恋愛ものの映画は無理ですよ。
でも、寝顔が見れたからよかったかな)

「可愛いな…」

顔にかかっている髪を横にかき分けてから
眠っているヒトミをじーっと見ていたアキラが
小さく言った言葉は佐為にだけに聞こえており、
それを聞いた佐為は優しく微笑み、起こすことやめた。

映画が終わるまでの約30分。
アキラはずっとヒトミを見ていた

































「ヒトミ起きて。映画終わったよ」
「……ん、塔矢?」
「うん、塔矢だよ」
「……ごめん、寝た」

辺りを見渡し、状況を理解したヒトミは謝った。
これはヒトミが悪いに決まっている

「寝不足?」
「今日が楽しみで眠れなかった」
「ホント?」
「ウソです」
「だと思ったよ。そろそろ外に出ようか」
「うん」

空になった飲み物の入れ物を持ち、
立ち上がりアキラに付いていくヒトミ。
ドリンクを捨ててから映画館を出た

「この後、どうするの?」
「市川さんが待ってるって」
「あの人は何がしたいのよ」
「ヒトミが好きなんだよ」
「……そうは思えないけど」

この後に起こることがなんとなくわかったヒトミは、
囲碁サロンに行くのがイヤになる

「行くしかないかな。
後で何を言われるかわからないからね」
「じゃあ、行こうか」
「うん」

アキラと共に囲碁サロンへと向かう途中、
知り合いと目が合う。その子はニヤニヤと笑い、
手を振りながら近づいてくる

「滝川さん」
「塔矢、行こう」
「あれあれ?ヒトミちゃんと塔矢くんじゃないの」
「そのテンションは何?」

やって来たのは友達の風香。
見るからに面倒な雰囲気だ

「お似合いだね」
「ありがとう、じゃあね」
「え、ヒトミ?」

アキラの手を引っ張り、走り出したヒトミ。
二人の背中が見えなくなるまで
風香は二人を見ていた。

そんな風香のせいで囲碁サロンに
行く気がなくなったヒトミはそのまま家に帰り、
後で市川に怒られたのだった





2015/02/27



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