隣にいる者2

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10月になった。今日から院生だ。
棋院のエレベーターで上にあがりながら、
楽しみで自然と笑みが漏れてしまった。

6階に着き、エレベーターから降りると
大部屋の前のところにいた人たちが
値踏みをするかのようにヒトミを見ている。

「おはよう」
「……」

『佐為、私なにかしたっけ?』
『いえ特には』

何でこんなに見られているんだろうと
思いながら靴を脱ぎ、
下駄箱に入れ、荷物を置いてから大部屋に入った。
そこで初めてなんでこんなに視線が
集まっているのか気付くことができた

「今日から来る子、
塔矢名人と一緒にいたって本当?」
「本当だよ、私見たもん」
「え?塔矢名人と知り合いなのかよ」
「そこまでは知らないわよ」
「塔矢名人の弟子とか?」
「うそだろ、今日の初戦オレなんだけど」
「頑張れよ」

『佐為』
『これは仕方ないですね』

「はぁ」
「よお南条、初日からため息か」

ヒトミの肩を後ろから叩き
そう言ったのは和谷だった。
緊張をほぐそうとしてくれたようだが、
南条と名前を呼んでしまったので、
ヒトミに視線が集まってしまった

「うわぁ、お前人気者だな」
「和谷に分けてあげようか」
「いらねぇよ」
「ヒトミちゃん、和谷くんおはよう」
「フクおはよう。伊角さんも」
「おはよう。凄い噂だな」
「私塔矢さんの弟子じゃないんだけどな、
打ったことだって2回しかないし」
「2回もあるのか!?」
「あれ、これ言わない方がよかった?」

ざわっといっきに騒がしくなったので、
やってしまったと思ったがもう遅い

「南条って意外と抜けてるな」
「伊角さんに言われたらおしまいだな」
「おい」

和谷と伊角が言っていることは
ヒトミの耳には届いていなかった。

このくらいなら滑らせても問題ないが、
佐為のことを言わないように
前以上に気をつけないといけないと思った。

そして、最初の対局者の前に座ったとき、
院生師範の篠田が大広間。
正式には洗心の間に入ってきた

「おはようございます」
「今日からみんなの仲間が増えました。
越智康介くんと南条ヒトミさんです。
よろしくお願いします。では、始めて下さい」

院生として記念すべき一局目が始まった




































(中押しっと)

『楽しそうですね』
『まあね、二連勝。黒星がないって気持ちいい』
『そうですね。ヒカルは最初黒ばっかりでしたよ』
『ああ、そうだったね。
でも塔矢のライバルなんて言っちゃったから』
『困りましたよ』

「勝ったのか?」
「勝ったよ。伊角さんも?つけようか?」
「頼んでいいか?中押しだ」
「中押しっと、はいつけたよ」
「ありがとう」
「いえいえ」
「えへへへへ、また和谷くんに勝った」
「くっそー何でフクには勝てないんだ」

ニコニコしながらやってきた
フクの後ろには和谷

「二人とも勝ったの?」
「ああ」
「勝ったよ」
「おまえあっという間に1組まで来そうだな」
「1組1位の座を奪うつもりで頑張るよ」
「うわ、困るな」
「伊角さん、そこはお前なんかに
渡せねえよって言うところだろ」
「そうだな」
「ねえねえ、ヒトミちゃんはお昼どうするの?」
「お昼?買い弁だよ」
「ほんと?じゃあヒトミちゃんも一緒に買いに行こう」

もうお昼休憩なようで、
ヒトミ、和谷、伊角、フクの4人で
近くのコンビニへと向かった



































コンビニでお昼を買った四人は、
お昼を食べながら色々話をしていた。
話といってもヒトミについての質問ばかりだ

「ヒトミちゃんのお母さん元プロなんだ!すごいねー!」
「なるほど。塔矢名人と
知り合いっていうのは納得できたよ」
「それにしても一人暮らしなんて凄いね」
「別に大変なことはないよ。一日中碁を打っていられるし」
「はー、いいな一人暮らし」
「和谷はしないの?」
「するとしたら中学を卒業してからだな」
「そっか」
「おっと、そろそろ対局始まるぜ。行こう」
「うん」

四人は立ち上がり、
また大部屋へと行って対局をしたのだった





2015/03/01



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