隣にいる者2

□74
1ページ/1ページ




ついにやってきた院生研修日。
あれは事故だから自分は気にしない。
伊角が気まずそうだったら謝ろうと決めたヒトミは
いつも通り棋院にやってきた。

エレベーターで6階まで上がり、
天元の間に行くと、一番最初に奈瀬と目が合う

「おはよー」
「お、おはよう」
「どうしたの?」
「先週……」
「先週?何かあったの」
「え?」

ヒトミの返しに驚いた奈瀬は
目を見開き、パチパチとまばたきをする。

「変だよ」
「え?え?どういうこと?」
「こっちこそ、どういうこと?だよ」

伊角のことを完全になかったかのように
振る舞うヒトミに、
奈瀬は先週伊角が言っていたことは
間違いなのかな?と思い始めた

「あ、伊角くん」
「ん?あ、3人ともおはよー」
「……はよ」
「お、はよ」
「……」

天元の間の入口に立っていた
ヒカル、和谷、伊角に挨拶すると、
ヒカルと和谷は戸惑いながらも返し、
伊角は無言だった

「おまえは何で普通なんだ!?伊角さんを見ろ!」
「わ、和谷!」
「そうだぜ!今日だって、
棋院に来るまでに何回止まったか!」
「進藤!」

ヒトミに近づいてきて怒る二人を伊角が止めに入る。

「棋院に来るまでに何回も止まった?」
「気にしなくていいから!」
「ごめん、そんなにイヤだった?」

さっきまでのヒトミとは一変して
悲しそうな表情になったヒトミに
伊角だけでなく、まわりにいる3人も戸惑う

「事故だから、
なかったことにしようとしたんだけど、
伊角さんにとっては、なかったことになんか
出来ないくらいイヤだったの?
だから、今日も私の顔なんか見たくなくて……」
「違う!違うからな!」
「気をつかわなくていいよ」
「イヤじゃない!
ただ、南条に避けられたら
どうすればいいかって考えてて……」
「……よかった」

一生懸命弁解してくれる伊角を見て、
ヒトミは心から安心したように笑った。

伊角と気まずくなるのは、
絶対に避けたいと考えていたので、
話してくれてよかったと思った

「じゃ、なかったことでいいんだよな?」
「うん」
「なかったことか……」
「え、ムリ?」
「いや、まぁそうだな。忘れるよ」
「うん」
「よく忘れられるわね」
「明日美?」

今までことの成り行きを見ていた奈瀬が、
ここで口を出した

「私なら忘れるなんてムリね。
ファーストキスだったら余計にそうよ」
「……伊角さん、初めてだった?」

黙ってヒトミとは目を合わさずに頷いた伊角。
それを見たヒトミは頭を抱えた

「みんなー、もう時間だよー」

まだ話が片付いていないのに、
院生研修が始まる時間になってしまい、
フクが呼びに来てくれたのに、応じるしかなかった



































院生研修が終わり、
ヒトミは伊角と共に近くのカフェに入った。

「伊角さん、どうすればいいかな?」
「……南条は気にしないのか?」
「うん。伊角さんだからいいかなって」
「オレがだから?」
「そう。伊角さんだから気にしない。
もしクラスメートとかだったらイヤだし」
「南条は、経験あったのか?」
「まさか、初めてだよ」

ヒトミの返答に伊角は驚く。
ファーストキスなら、誰もが気にすること。
特に女子はそうだと思っていたからだ

「……悩んでいてもしかたないな。忘れよう」
「うん、気にしないのが一番だよ」

ヒトミと伊角の関係は変わらず、
今まで通りに戻ったのだった。





2015/03/18


73へ/目次へ/75へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ