隣にいる者3

□80
1ページ/1ページ

 


今日は風香の妹である香菜との約束の日で
ヒトミは道玄坂に来た。

扉を開けると、受付の女性と目が合う

「いらっしゃい。子供は500円だよ」
「はい」

500円を渡して碁会所内を見ると、
まだ香菜らしき小さな女の子はいなかった

「棋力はどれくらいだね」

大柄な優しそうな男性が話聞けてきた。
彼はこの碁会所のマスターだ

「院生です」
「おお、院生か」
「なに、院生だと?」
「院生か!面白い!オレと打つぜ!」
「河合さん。また来たのかい?」

ドアのとこにいる帽子をかぶり、
サングラスをかけている男性が話に入ってきた。

彼の名前は河合、タクシーの運転手で、
よくサボってこの碁会所に来ている

「ほら、座れよ!」
「はい」

河合が座って、ヒトミもその前に座る

「置き石はどうしますか?」
「置き石?いらねーよ、そんなもん!」
「いいんですか?」
「ああ!」

いくら言っても諦めそうにないので、
互先で打つことにした

『佐為、打つ?』
『はい、打ちます!打ちます!』

手を上げて嬉しそうに佐為は言う

「じゃ、お願いします」
「お願いします」



































佐為と河合が打っているとき、
碁会所の扉が開き、可愛らしい女の子が入ってきた

「また、来たのか」
「うん。今日は、待ち合わせなの」
「待ち合わせ?碁会所でかい?」
「うん」

受付の人に500円を渡した女の子は
碁会所の中を見回し、
人だかりができているのに気づき、
不思議に思いその集団に近づく

「……負けました」
「え、あの、まだここに打てば」
「あっ!くそ!気づかなかった!」

河合が投了し、佐為の勝ちで対局が終わった

「つえーな!コイツ!」
「うわっ!」

ヒトミの頭をガシガシと撫でる河合から
逃げ出し、髪の毛を直す

「なにするんですか!」
「いいじゃねーか!おまえ名前は?」
「南条ヒトミです」
「南条な」
「ヒトミさん?」
「え?」

女の子の声が聞こえ、その方向を見ると、
小学生くらいの女の子が一人
どことなく風香に似ているので、
すぐに風香の妹である香菜であることに気付いた

「香菜ちゃん?」
「うん!」
「待たせちゃったみたいだね。ごめん」
「いいよ!ヒトミさんすごく強いんだね!」
「ありがとう」

香菜がキラキラした目で見てくるので、
少しだけ苦笑いがでたが、
すぐに笑顔に切り替え、お礼を言った。

「香菜ちゃんと知り合いだったのかい?」
「香菜ちゃんの姉と友達で、
香菜ちゃんを鍛えてほしいとお願いされたんです」

マスターの質問に答えると、
他のお客さんも驚いたような表情をする。

だが、すぐに安心したような優しい表情を浮かべる
どうやら、香菜が碁を打つことを
親に反対されていることは知っているようだ。

「よかったじゃねーか!滝川!」
「うん!」
「じゃあ、早速だけど打とうか」
「はーい!」
「じゃあ、5子置いてね」
「え、5子も?」
「ずいぶんなめられてるな!」
「じゃあ減らす?」
「……ううん、このままでいいよ」

香菜に黒を持たせて
対局が始まった。

ヒトミは指導碁を打ち、
香菜は自分の力を見てもらおうと
精一杯自分の力を出す

『どう?佐為』
『完全に独学の強さですね』
『うん。でも、あと半年はあるから大丈夫ね』
『はい、間に合いそうですね』
『よかった』

ある程度の実力があることがわかったので、
ヒトミも佐為も安心できた。

「持碁ね」
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」

打ち終わった香菜は興奮していた。
こんなにも強い人と今まで一度も
打ったことがなかったからだ。

「今からちゃんとやれば、
3月の院生試験には合格できるよ」
「ホント!?」
「香菜ちゃんの気持ち次第よ」
「それなら大丈夫!」

香菜の実力もわかり、
これれから鍛えるのが楽しみになった。

そのためには、まず自分がプロ試験に
受からないとなと思い、気合いがはいったのだった





2015/03/21


79へ/目次へ/81へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ