隣にいる者3

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ピンポーンとインターホンの音が鳴る。

その音にいち早く反応したのは佐為で、
香菜ちゃん来ましたよ!ほら行きましょう、
早く早くと、とてもテンションが高い

「いらっしゃい、迷わないで来れた?」
「お邪魔します。大丈夫でした」
「なら、よかった。ほら上がって」
「あ、あの。これ、えっとーつまらないものですが」
「わざわざありがとう」

親に渡せと言われたようで、
つたない言葉で手土産を渡した香菜は
一仕事終えたため、少し緊張が取れたようだが、
やはり家にいきなりお邪魔することに
まだ緊張しているようだ。

その緊張をくみ取ったヒトミは
優しく背中を押し、碁盤の置いてある部屋に通す

「そこに座ってて。飲み物用意するから」
「あ、はい」
「オレンジジュースと麦茶どっちがいい?」
「えっと、オレンジジュースで」
「はーい」

冷蔵庫からオレンジジュースを出し、
自分のと香菜の分をコップに入れ、
オレンジジュースを冷蔵庫に戻して、
コップをもって香菜の下へ戻って
碁盤の隣に置いてある机に飲み物を置いた

「はい」
「ありがとうございます」
「じゃあ、早速だけど、これからのことを話すね」
「はい」
「風香からは聞いていると思うけど、
平日は学校に終わったらうちに来てもらって2局は必ず打つ。
土曜日は10時に来てもらってできるだけ打つ。
基本的に火曜日と日曜日はナシだけど、
香菜ちゃんがやりたいのなら、言ってくれればいつでも打つよ」
「ありがとうございます」

これからのことの確認が終わり、
ヒトミはオレンジジュースを一口飲んでから質問をした

「何か聞きたいことはある?」
「んーと、院生試験って難しいですか?」
「そうねー難しいって聞かれたら難しいのかな?
院生師範と碁を打つんだけど、今の棋力というか、
これからの見込みがあるかどうかを
おそらく判断するんだと思う。
実際友達がそうだったからね」
「見込みがあるかですか…」
「大丈夫だよ。私と何回も打っていけば自然と力はついてくるし、
見込みがあると思ったから私は香菜ちゃんに
碁を教えようと思ったんだから。私を信じて」
「は、はい!」
「じゃあ、早速打とうか。緊張しないでいいよ。
前に道玄坂で打ったときと同じ感じで大丈夫だから」
「はい!」

香菜とのヒトミの家での初めての対局が始まった







































「えー!ヒトミさん。
進藤プロと仲良いんですか!?」
「まあ同じ院生だったしね」
「いいなー」
「なになに?香菜ちゃんはヒカルに憧れているの?」
「はい!」
「会ったことあるの?」
「道玄坂で打ってるのを
何回か見たことがあるだけで話したことはないです」
「あ、そういえば。
プロ試験前に行ったって言ってたっけ」

プロ試験の前に前回と同じように
道玄坂に行って打っていたと言っていたことを思い出した。
しかも今回もたくさんの人を持碁にしたと得意げに言っていた

『ヒトミ!』
『何?』
『ヒカルのどういうところに憧れているのか聞いてください』

「ヒカルのどんなところに憧れているの?」
「えっと、その、強いところに憧れています!
あと、なんて言っていいのか、すごく見てしまうんです」
「見てしまう?」
「ヒトミさんみたいに、進藤プロも歳のわりに
とても落ち着いているじゃないですか。なんか、かっこいい」
「……そっか」
「それに、なんであんなに打っているとき、
きれいなんですか!?」
「え」
「普段は落ち着いててかっこいいという感じなのに、
対局が始まると、あの表情がなんとも言えなくて」

ヒカルを思い出しているのか、
うっとりとした表情で話している香菜を見て、
ヒトミも佐為も唖然

「はー、なんであんなにかっこよくて美人なんだろう」
「……香菜ちゃん、
そういうところお姉ちゃんそっくりだね」
「お姉ちゃんと私はタイプが違いますもん!
お姉ちゃんは塔矢プロみたいな人が好きなんですよ」
「ああ、アキラか。そういえばそうだったね。
香菜ちゃんは、アキラみたいなタイプ好きじゃないの?」
「確かにかっこいいとは思いますけど、なんか怖いです」
「あはは、怖いか。確かに怖いね。
でもそれは対局中だけで、普段は結構可愛い顔してるよ?」
「え、そうなんですか?」
「うん。夕飯作り終わったら写真を見せてあげるね」
「進藤プロの写真はありますか!?」
「あるよ。随分食いつくね」
「本当に整った顔しているじゃないですか!」
「まあ、美人だよね」
「ですよね!」

前と顔は変わってないはずなのに、
大人っぽい雰囲気があるからなのか、
前回とは異なり、モテるらしい
あかりからそのての話を聞いたことがあったので、
中身は大事なんだなと改めて思った




































「あー、かっこいい!」

夕食を食べながら香菜はうっとりとした表情で
院生のときに撮ったヒカルの写真を見ている

「あ、香菜ちゃんあったよ。
ほらアキラ、可愛いでしょ」
「え!?これいつの写真ですか?」
「小6かな?」
「か、かわいい!」

なぜか市川さんに渡された塔矢アキラコレクション。
確かに美形は見ていて目の保養だが、
それが友達だと考えるとどうも見る気にならない

「これがこの前私がプロ試験に受かって
お祝いしてくれたときのやつ」
「……こんな表情もするんですね」
「可愛いよね。こう見るとヒカルのほうが
よっぽど大人っぽい表情をするよ」
「ヒトミさんって進藤プロと塔矢プロ、
どっちの方が仲良いですか?」
「んーヒカルかな」

すべてを打ち明けているためヒカルとは
本当に仲が良いとヒトミは思っている。

逆にアキラは言えていないことが多いため、
少し後ろめたい部分があるからか、
ヒカルと比べたら自分をさらけ出せていない。

「あ、そうだ。今度ヒカルも呼ぼうか」
「え!?」
「香菜ちゃんもヒカルに打ってもらいたいでしょ?」
「打ってもらいたいですけど、そんな、迷惑ですよ」
「平気平気、アイツなら快く頷いてくれるよ」
「ホントですか!?」
「うん。頼んどくよ」
「ありがとうございます!」

この後夕飯を食べ終え、
もう一局打ってから、香菜を自宅まで送った。

今日から香菜を院生試験に合格させるための指導が始まった





2015/04/03


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