隣にいる者3

□101
1ページ/1ページ




ピーンポーンというインターホンの音が聞こえ、
佐為と話していたヒトミは立ち上がる

「はーい」

ドアを開けるとそこにいたのは緒方だった

「いきなり、悪いな」
「お疲れ様です。どうぞ」

今日の手合いは時間がかかったようだが、
表情からして勝ったのだろう

「ちょうど今から作ろうとしていたので、
夕飯はもう少し時間がかかります」
「そうか」
「ゆっくり休んでいて下さい」
「ああ」

緒方が腰を下ろしたのを見てから
ヒトミはリビングへと移動する。

そして、早速調理を始めようとした時だった。
ピーンポーンとチャイムが鳴る音が聞こえる

(もう、誰だよ)

「オレが行く」
「え、いいですよ。疲れているんですから」
「いい」
「……お願いします」

何を言っても曲げそうになかったので、
ヒトミは緒方に任せ、またリビングへと戻った。
そして緒方は玄関に行き、ドアを開ける

「緒方先生!?」
「進藤?」
「何で緒方先生が……」
「ヒトミ、進藤が来たんだが」
「ヒカル?ヒカルー!こっち来て」
「あ、ああ」

ヒトミの指示に従い、
中に入ったヒカルだったが、
緒方に見られていて居心地が悪い

「今日はどうしたのよ」
「家出」
「バカ」
「しかたねーだろ。
勉強、勉強煩いんだよ。
前はここまでは言わなかったのに」
「来るときは連絡してって何回言わせんのよ」
「悪い」
「思ってないでしょ」
「アハハ」
『もう、ヒカルったら……』

直す気が全く感じないヒカルに佐為が頭を抱える

「まあ、来ちゃったもんは仕方ないけどさ、
今日は緒方さんが夕飯食べて行くから」
「何で?」
「プロ試験のときお世話になったから、そのお返しかな」
「ふーん、まっ暫くよろしくな」
「あかりちゃんのところにでも
泊まればいいのに」
「あかりん家?イヤだよ。バレるじゃん」
「親にいる場所を伝えないつもり?
今頃心配しているよ?」
「……」
「電話してきな」
「……わかったよ」

キッチンから出て行ったヒカルと
入れ替わりで緒方が入ってきた

「どうしたんですか?」
「まるで母親だな」
「アハハ……」
「進藤はよく来るのか?」
「はい。もう自分の家の感覚ですよ」
「アキラくんが羨ましがるだろうな」
「何でですか?アキラの家には
プロの人がたくさん来るんだから、
私と打つ必要なんてないし、
私の棋力なんてそんな大したことない」
「何でアキラくんがヒトミと
打ちたがっているのか知らないのか?」
「残念ながら知りませんね」

初めて塔矢宅に行ったとき、アキラは同い年で碁を打つ人が
いないからだと言っていたが、それだけとは思えない
だが本人に聞くタイミングを逃したため聞けないでいた

「ヒトミちゃんと会う前に
アキラくんは進藤と打ったことがあるんだ」
「知ってます。小学6年の冬に
打ったとヒカルから聞きました」
「ヒトミちゃんの碁の中に、
そのときの進藤が見えたと言っていた」
「……」
「アキラくんが同い年の子に、
しかも完敗したことなど今までなかった。
そして、これからもないと思っていた。
だが、現れた進藤ヒカル。
アキラくんはずっと進藤との対局を並べていたよ。
そんなときに現れたのがキミさ」
「成る程、だからあんなに
私とヒカルに対局を申し込んでいたのか」

緒方に背を向け、調理を再開したヒトミ。
もう、この話は終わりにしようという合図だ

「キミと進藤は……」
「おい、ヒトミ」
「何?」
「あれ、何で緒方先生ここに?
休んでるんじゃないんですか?」
「少し聞きたいことがあってな。
まあ、いい。向こうで休ませてもらうよ」
「どうぞごゆっくり」

リビングから緒方が出て行ったのを
確認してからヒカルが小声で話しかけてくる

「大丈夫か?部屋に棋譜とかあるだろ?」
「大丈夫。事前に来るって
連絡があったから隠して鍵もかけた」
「なら、いいけど」
「それより、お母さん大丈夫だった?」
「大丈夫じゃねーよ!今すぐ帰ってこいって。
迷惑がかかるって、そんくらいオレだったわかってるよ!」
「以外と気を遣ってくれてるよね」
「だろ?なのに、今度は挨拶に来るって言うし、
暫く対局がないんだから勉強しなさいって」
「これからプロってときに勉強?」
「だよな!これからが本番だっていうのに!」
「でも、全く勉強しないってのもよくないね」
「何でだよ!」
「なんか、条件つけたら?
今度の期末テストで全部平均点以上とったら、
もう口出ししないで、とか」
「条件ってのはいいけど、全部平均点なんて無理だぜ」
「まあ、そういうことは両親と相談して、
何点とか決めてもらいな。勉強なら教えてあげるから」
「ホントか!?」
「ただし!」
「何かあんのかよ……」
「当たり前でしょ」
「……なんだよ」
「来るときは必ず電話して。
知ってると思うけど香菜ちゃんに碁を教えないといけないし」
「それ大丈夫なのか?
香菜ちゃんの面倒を見て、オレに勉強まで教えて」

ヒトミのことを
何だかんだ気にしてくるているヒカルは
ヒトミの碁の時間を奪うのはイヤだった

「時間の管理くらい出来るよ。
間をぬって碁の勉強はする」
「なら、いいけど」
「ほら、作り終わったから、運ぶの手伝って」
「はいはい」

ヒカルに手伝ってもらいながら夕飯を運ぶ。

「緒方さん、できました」
「以外と作れるんだな」
「慣れたから作れますよ」

いただきますと言い、口に料理を運ぶ緒方。
ヒトミの横ではもうヒカルが食べている。
早いなと思いながらヒトミも食べ始める

「そうだ、ヒトミ」
「何?」
「まだ先だけどさ、オレの中学で
創立祭があるんだけど、来ないか?
囲碁部のみんながまた会いたいってさ」
「へー、じゃあ明日美たちでも誘って行ってみようかな」
「囲碁部が出し物するぜ」
「何やるの?詰碁とか?」
「詰碁もあるし、対局もあるぜ」
「うわー楽しみだ」
「対局は院生の奴らと来るなら気つかえよ」
「大丈夫、大丈夫。みんな本気じゃ打たないよ」
「それは、三谷が許さねーだろ」
「あー」

プライドが高い三谷は
手を抜かれるのを気にするだろう

「進藤」
「何ですか?」
「何で囲碁部なんかに入ったんだ?」

会話に入ってきた緒方の問いは、
前にアキラにも聞かれたことだった

「決まりだったからかな」
「決まり?」
「そう。決められた道を歩むつもりだったんです」
「よくわからないな」
「わからなくていいよ。
もう、決められた道を歩むつもりはないし」
「……そうか」
「はい」

これ以上は聞いても無駄だとわかったのか、
それ以上の詮索を止め、また食事を口に運ぶ

「そういえば、今日の対局どうだったの?」
「2目半勝ちだ」
「緒方さん、調子いいですよね」
「まあな」
「早くプロと打ちてーな」
「新初段シリーズがあるだろ」
「緒方先生はやらないんですか?」
「どうも、手を抜くというのはな」
「塔矢門下はプライドが高いですよね。
特に塔矢さんとアキラ。
あの親子は困るくらいですよ」
「ハッハッハッ。確かにそうだな」

このあと、行洋やアキラの話になり、
沢山話してから緒方は帰っていき、
ヒカルはヒトミの家に泊まったのだった






2015/04/07


100へ/目次へ/102へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ