隣にいる者3

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今日は新初段シリーズ。
ヒトミ対桑原の対局が行われる日だ。

ヒカルと越智は棋院で待ち合わせをしており、
ヒカルを先頭に新初段シリーズの
対局を見ることのできる
記者室に入って、驚きの声を上げた。

何故ならば、行洋、アキラ、緒方、芦原という
新初段なんかの対局にプロ棋士が四人もいたからだ

「「こ、こんにちは」」

二人はこんなにもプロ棋士がいることに驚き、
慌てて頭を下げて挨拶をした

「進藤、それに越智くん」
「おう、塔矢久しぶり」
「どうも」
「進藤くん。今度の対局、よろしく頼む」
「はい!」

行洋に元気よく答えてから、
ヒカルと越智は離れた場所に座った

「すっげー、メンバーだな」
「うん。南条って注目されてるの?」
「それもあるけど、
アイツ塔矢門下に世話になってるようなものだから」
「あ、そっか」

二人が小声でそんな話をしているとき、
また扉が開き、ヒカルはげっという声を漏らした

「塔矢名人に緒方九段、
芦原と塔矢アキラも、
たかが新初段の対局なのに」
「倉田くん。私たちがここにいるのはキミと同じ理由だ」
「南条ヒトミ。やっぱり注目集めてるんですね」

やってきたのは倉田厚。
前からずっと、骨董品屋での対局が気になっていて
ここまで来てしまったのだ。

いったいどんな碁を打って、
ああいう盤面になったのか。
ヒトミがどういう碁を打つのかが
わかれば解決すると思ったのだ

「倉田はヒトミちゃんと知り合いだったの?」
「いいや、たまたま対局を見てさ。
でも、見たのは終局してからで、
全く盤面を見ても手順が分からなくてさ。
一体どんな碁を打ったのか気になって今日はここに来た」

倉田が芦原と話しているとき、
ヒカルはこっちに気付くなよとずっと願っていたが、
その願いは聞き届けられなかった。

たまたま後ろを見た倉田と
ばっちり目が合ってしまったのだ

「あー、進藤ヒカル!」
「やべっ見つかった」
「ねえ、キミもいたよね?
ちょっと初手から並べてよ」
「イヤです」
「いいだろ?気になって夜も眠れないよ」
「ヒトミに誰にも教えるなって
言われてるんです!」
「ちぇー、分かったよ。
今日の対局を見れば何かわかるかもしれない」
「わかるわけねえだろ」
「え?」
「いえ、何でもないです!」
「ふーん」
「はあ」

諦めてくれた倉田が椅子に座ったとき、
ヒトミの先番でコミは逆コミ五目半、
持ち時間は2時間、使いきってからは
一手一分の秒読みで
対局が開始された対局が始まった。





































時を少し遡り、ここは棋院の前。
ヒトミと桑原が並び、
カメラマンに写真を撮られている

「向き合って少し会話してもらえますか?」
「ふぉふぉふぉっ、会話と言われてものう」
「困りますね」
「そうじゃのう、緊張はしとらんか?」
「はい、緊張はしていません。
今日は楽しみだったので、早く打ちたいくらいです」
「それはワシも同じじゃよ。
今回は指名させてもらった」
「桑原先生が、私を?」
「前にエレベーターのところで
会ったのを覚えとるか?」
「はい」
「その時から、おまえさんと
進藤というやつに目をつけていてのう。
思った通り、ここまで来た」
「ここで終わりませんよ。
私はまだ先に進みます」
「ふぉふぉ、楽しみじゃ」
「では、移動しましょうか」

そして幽玄の間に移動し、対局が始まる








































対局はどんどんと進み、
ヒトミがリードしているときだった。
あるヒトミの一手で空気が変わった

『ヒトミ!その手は!』
『やばい、佐為!やっちゃった』

普段なら佐為の声など
対局中ににヒトミに届くはずはない。

しかし、今はヒトミの耳にしっかりと届いている。
それはヒトミが焦って集中力がきれたからだ。

恐る恐る桑原を見るが、険しい表情なだけで、
何を考えているのかわからない

『佐為、どうしよう』
『何をやっているのですか!』
『仕方ないじゃん、勝手に手が動いたんだよ!』
『……大丈夫です。
この一手だけではわかりません』
『だよね!あー、私の馬鹿野郎!』

ヒトミがそんな会話を佐為としているとき、
テレビでこの対局を見ていた人々は
暫く何も言えなかった。
やっと口を開いたのは芦原だった

「ヒトミちゃん、
何でこんなところ打ったんだろう」
「私にも全くわからない」
「悪手ってわけでもないが、
この手は何も意味を持たないだろ?」
「お父さん」
「私にもわからない」
「打ち間違いですよきっと、打ち間違い。
隣に打とうと思って、焦ったんですよ」

倉田や芦原が打ち間違いだと言っているなか、
越智やアキラや緒方はそうも思えず、
何でここに打ったかを考えている。

行洋はずっと先まで読むときわどい気がすると
この次、桑原はどんな手で
返してくるのかと考えている。

皆が様々なことを考えている中、
ヒカルだけはつらそうな表情で
両手を握りしめていた



































結局、ヒトミの四目半勝ちで、
検討のとき桑原になぜこの一手を打ったのかと聞かれ。
打ち間違いと答えたため、
この問題は解決したのだった






2015/04/25


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