隣にいる者3

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佐為の頼みでアマチュア囲碁フェスティバルに来たヒトミ。

もしかしたら倉田と会うかもしれないので、
来たくはなかったが、佐為にお願いされたら
断れない性分なのだから仕方がない

『本当に凄い人ね』
『前より多い気がしますね』
『どうする?対局でもする?』
『いいんですか?します、します!』
『じゃあ、決まりね』

「すみません。対局したいんですけど」
「はい、いいですよ」

まだ受付をしていたみたいで、
受付をすませ、対局をすることになった

「お願いします」
「お願いします」
『お願いします』
『佐為、どうせ打つなら目隠し碁でもしてみない?』
『目隠し碁ですか?いいですね。面白そうです』
『はい目を閉じて』
『わかりました』

相手が先番で最初の一手を打っていた

「え?」
「文句でもあるのかね?」
「いえ、ありません」

『どうしたのですか?』
『初手天元打ってきた』
『天元ですか?面白いですね。では右上隅小目』

佐為の言った通りにヒトミは打ち、
その後は特に珍しい手を
相手が打ってくるわけでもなく
結果佐為の中押し勝ちとなった

「ありがとうございました」
「お譲ちゃん、どっかで見たことある顔じゃな」
「え?気のせいじゃないですか?」
「いや、一度見た顔は忘れんぞ!うーん」
「私はこれで失礼しますね」

ヒトミは慌ててその場を離れた。
あのまま、じーっと顔を見られていたら
いつか気付かれそうだったからだ

『ヒトミ!次はどこに行きます?』
『あんたは元気だね』
『もちろんです!』
『そうですか。佐為は何でここに来たいって言ったの?
何か気になることがあるんじゃないの?』
『ええ。また、ニセモノの
碁盤を売っていないかと思いまして』
『ああ、そりゃ気になるね。
秀策の碁盤だって言ってたのもあったし。よし、行こうか』

ヒトミは碁盤や石、扇子など
様々な囲碁に関する商品が売られている場所へと移動した。
そして、そこには知り合いがいて、何か言い合いをしていた

(全く、何やってるんだか)

ヒトミはそれに近づき、耳を傾ける

「それは秀策の字じゃねーよ!」
「これはマチガイなく、本物だぜ」
「ホラ!プロの先生がこう言うておられるんや!」
「何でプロがそんなウソつくんだよ!
アンタがその字書いたんだろ!」

ヒカルの言葉にギクリとする御器曽と販売者。
そんな分かりやすい反応をしたら、
ヒカルの言っていることが本当だと言っているようなもんだ

「ご、御器曽先生になんちゅう、失礼なことを!」
「まァまァ」

そこに運営の人が間に入り、
騒ぎを大きくしないように止める

「勝手にケチをつけるな。
私は行く、そろそろ指導碁の時間だからな」

そう言って御器曽プロが行ってしまい、
ヒカルは運営の人に連れて行かれたので、
ヒトミはその後を追いかけた

「ヒカル」
「あ、ヒトミ。おまえ見てたのか?」
「まあね。ねえ、おじさん。
ここにある碁盤ニセモノだよ」
「ニセモノ?」
「ああ。絶対ニセモノだ」
「キミたちにわかるの?」
「うん。これだけじゃない、
そっちに売ってるやつもだよ」
「さっき打ってみたけど、カヤの音じゃなかった」
「キミも石を置いたのかね?
売り物に傷が付いたらどうするんだ」
「すみません」
「だが、やっぱり違ったのか」
「やっぱり?」

この運営の人もあの碁盤はカヤではなく
新カヤであると気付いていた。

しかし、御器曽の紹介だったため、断ることができず、
去年まで来てもらっていた親切な碁盤屋ではなく、
この碁盤屋が出店することになってしまった。

結局、碁盤屋の方は運営のおじさんが注意して
見ておくよということで話は終わってしまった。

「やっぱり、倉田さんに言うしかねーのか?」
「みたいだね。佐為もすっごく怒ってるし、
このままにするわけにはいかない。
あまり会いたくなかったけどしょうがない。
ここに来た時点で覚悟は決めてるよ」
「じゃあ、倉田さんを探すか」
『その前に、さっきの方が滅茶苦茶な指導碁を打つのを
阻止しなくてはなりませんよ』
「あっそうだった。ヒカル、指導碁の方が先ね」
「忘れてた。行くぞ」

最近ヒトミもヒカルもこの先に起こることを
忘れることが多くなってきた。

それは、もう過去のことは
気にしないということにしているからか、
はたまた別の理由なのかはわからない。

御器曽が指導碁を打っている場所に行くと、
ヒドい碁が展開されていた。

プロがアマに対してこんな指導碁を打っていることが驚きだ

「これはもうムリですね」
「ムリじゃないよ」
「うん、ムリじゃない。まだ、大丈夫だよ」

御器曽の相手はもうダメだと諦めてしまったようだが、
この碁はまだ挽回できる余地がある。
諦めるのは早すぎるとヒトミたちは言うが、
打つ気はもうないらしく、挽回できるなら、
代わりに打ってみればと言われてしまった。

ヒトミとヒカルはどっちが打っても良かったが、
御器曽はヒカルの方が気に食わないようで、指名をした

「わかった、やるよ。ただ、オレが逆転できたら、
秀策のニセモノの碁盤を引っ込めろ」
「フン。できたらな」
『やっちゃえ!ヒカル!』
「頑張れー」
「おまえ適当だな。まあ、やるか」

こうしてヒカルと御器曽の対局が始まった。
ヒトミと佐為は隣でことの成り行きを見守る

『相手の者はプロなんですよね?』
『うん。確か七段』
『七段?白川先生と同じですか』
『見えないね。伊角さんや和谷よりも弱い』
『あまり段数は関係ないのですね』
『そうね。』
『降段制度がないのは問題ですね』
『あー確かに』

そんな話をしているうちに終局を迎えた。
整地をしてヒカルの一目半勝ち。
佐為が前にやったように、
流石に中押し勝ちは無理だったようだ

「こんな……こんなことが……いや……。
オレなめてかかったからだ。
そうでなけりゃこんな子供に」
「え?どれどれ、これがそう?」
「く、倉田くん」

ここで倉田の登場。
子供に負けた碁を見られるわけにはいかず、
御器曽はすぐに石を
ぐちゃぐちゃにして片づけてもせず、
立ち上がって去ってしまった。
残されたのはヒトミ、ヒカル、倉田だ

「進藤が相手なら仕方がないか」
「倉田さん」
「南条も進藤もこんなところで何やってるんだよ」
「そうだよ、ヒカル!御器曽プロ行っちゃったよ!約束」
「あー!!完全に忘れてた」
「約束?何かしたのか?」
「劣勢から巻き返したら、ニセモノの秀策の碁盤を
引っ込めろって約束したんですよ」

ヒトミはヒカルの向い側に座り、
石を片づけながら倉田に説明する

「ニセモノ?」
「そう。秀策の碁盤だけじゃなくて
新カヤの碁盤なのに、カヤとして売ってるのもあってさ。
倉田さんどうにかしてよ。
あの碁盤屋、御器曽プロの紹介だから、
運営の人は何も言えないんだってさ」
「ふーん、いいけど、オレのお願い聞いてくれるか?」
「お願い?」
「お願い?」
『お願いですか?』


ヒトミ、ヒカル、佐為の声が綺麗に重なった

「そう。南条、おまえオレと打て」
「イヤです」
「即答!?」
「倉田さん。オレじゃ駄目ですか?」
「えー進藤?」
「オレの方が強いですよ」
「うーん、やっぱいいや。
オレこの後指導碁あるし、
行こうか碁盤売ってるところ」
「……ありがとうございます」
「うんうん。かわいい子に
恩を売っておくってのもいいからね」

そう言って、ヒトミと打たないでくれた倉田。
そんな倉田と共に、売り場へ行き、
無事に秀策の碁盤を引っ込めてもらった。

そして、ヒトミとヒカルに自分のサインを書いた扇子を
渡して去って行ったのだった






2015/04/25


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