隣にいる者3

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「ここが進藤が通ってる中学か」
「意外と人がいるわね」
「ヒトミちゃん!あっちにたこ焼きがある!」
「後で食べようか」
「うん」

今日は葉瀬中の創立祭。
ヒトミ、奈瀬、和谷、フクの4人でやってきた。
本当は伊角も誘うつもりだったが、
連絡がつかず、無理だったのが残念だ

「じゃ、適当にまわるか」
「うん」

食べ物や、部活での出し物など沢山あり、
以外と楽しんでいる4人

「あ、あそこ!碁があるよ」
「あそこか囲碁部」
「行ってみようよ」

フクを先頭に囲碁と看板がある場所に行く。
そこには碁盤が3つあり、
今はあかりと夏目が詰碁の問題を出していた

「こんにちは」
「あ、ヒトミちゃん!」
「久しぶり」
「ちょっと見て待ってて」
「はーい」

詰碁の問題を出しているので、
そちらを気にしないといけなきため、
あかりは盤上に視線を戻した

「南条、打とうぜ」
「え?勝手に対局はまずいんじゃ」

和谷に対局を申し込まれ、
打ちたいと思ったが、勝手にやるわけにはいかない。
あかりと夏目は取り込み中なので、
他の囲碁部の子に聞こうと思ったが、誰もいない

「参ったな……」
「南条さん!」
「ん?小池くん!」

小池が三谷と共にやってきた。
三谷はヒトミがいることに驚いてその場で立ち止まる。
一方小池は嬉しそうに走りよってきた

「来てくれたんですか!」
「時間あったからね」
「ありがとうございます!」
「お礼を言われるようなことじゃないと思うけど」
「どうしますか?打ちますか?」
「そうだ、一緒に来た子と対局したいんだけど」

そう言ってヒトミは和谷の方を見る

「いいですよ!」
「ダメだ」
「三谷先輩?」

ポケットに手を突っ込んだまま
あいている碁盤の前にどかっと座った三谷は碁笥を下ろす

「おまえはオレと打て」
「何でだよ、打ったっていいだろ?」
「ダメだ」
「意味わからねー!南条、行くぞ」
「ちょっと、和谷!」

ヒトミの手を引っ張り歩き出す和谷。
それを三谷に逆に引っ張られ、
その場に押しとどめさせられた

「痛い!」
「おまえ離せよ」
「おまえこそ離せよ」
「痛いからとりあえず二人とも離せ!」

そう言って無理やり
手を振りほどいたヒトミは三谷に向き合った

「三谷、いいでしょ?」
「これはオレ達囲碁部の出し物だぜ?
勝手に打ちたいなら碁会所で打てよ」
「碁会所はお金かかるからボクイヤだなー」
「ヒトミ、進藤探そうよ。
進藤なら打っていいって言ってくれると思うし」
「アイツは囲碁部じゃねーから、意味ねーぜ」
「三谷くん、何言ってるのよ!」
「藤崎」

詰碁が終わったのか、
あかりが会話に入ってきてくれた

「打ったって問題ないでしょ」
「……」
「ただ単に三谷くんが
ヒトミちゃんと打ちたいだけでしょ」
「んなわけねーだろ!」
「ねーねー!」
「……なんだよ」

あかりに対して怒りをぶつけていた三谷だったが、
自分より年下のフクに話しかけられ、少しおさえた

「早碁でボクがキミに勝ったら自由に対局していい?」
「早碁?」
「うん!」
「おまえ、何歳だ?」
「ボク?12歳!小学生だよ」
「……いいぜ」

小学生ということを聞き、完全に甘く見ている三谷。
ヒトミは慌ててフクの手を引っ張って、
三谷には声が聞こえない位置に移動した

「どうしたの?」
「フク、あの子は院生の2組より棋力は下だよ
たぶんアマ中段くらい」
「ええ?そうなの?」
「だから石をたくさん置いても楽に勝てると思う」
「そっかー。じゃあ、石置いてもらうね!」
「ちょっと、フク!そんなの三谷のプライドが!」

ヒトミの話を最後まで聞かず、
三谷のところへ戻ってしまったフク。
三谷の怒鳴り声が聞こえ、頭を抱えた。

「何やってんだ?」
「ヒカル……」
「フクと三谷?何やってんだ?
おまえらで打たないのか?」
「三谷が駄目だって言ってさ。
だから、フクが三谷に勝ったら
許可してってなったんだけど」
「三谷と互先で打たせるのか?」
「置き石を置くと思う?」
「……ムリだな。行くか」
「うん 」

ヒカルと囲碁部のところに戻ると、
既に対局は始まっていた。
やはり、三谷は石を置かなかったようだ

「あ、ヒカル」
「あかり、打たせてやれよ」
「だって三谷くんが……」
「和谷、奈瀬、ごめん」
「進藤が謝ることじゃねーよ」
「そうよ、あの子が頑なに拒むから」
「ヒトミと打ちたいからだろ?
和谷たちはいつでも打てると思ってんだよ」
「オレだって南条と打ちたいんだよ。
これから打てる日が減るだろうし」
「そうよ、私達だって
いつでも打てる訳じゃないんだから」

この春からプロになるヒトミと、
院生の和谷たちは打つ機会が減ってしまうのは仕方がないことだ

「別に私の家に来てくれたら、いつでも打つけど」
「邪魔はしたくないわよ」
「気を遣いすぎ」

そんな会話をしながら二人の対局を見る。
やはりフクは早碁が得意なようで、
あっという間に勝負はついた。

しかし、なかなか三谷が投了しない。
悔しそうな表情のまま打ち続けているのだ

『悔しいのでしょうね』
『うん。力の差が明確だと、
自分の弱さがイヤになってくるよ』
『そろそろ大会がありますね』
『そっか、海王中での大会って来週の日曜日か』
『今日の対局で悔しい思いをしたぶん、
その大会にぶつけられればよいのですが』
『大丈夫だよ、三谷なら』
『そうですね』

佐為との会話が終わったとき、三谷が投了した

「……おまえさ」
「なに?」
「この前のプロ試験何勝何敗だった?」
「ボク?えっと確か11勝16敗だよ」
「その強さで勝ちより負けの方が多いのか……悪かったな、打っていいよ」
「三谷!」

椅子から立ち上がり、
去っていこうとする三谷を呼び止めるヒトミ

「オレと打っても、プロのお前にはつらまらないよな」
「そんなふうに思ったことは一回もない」
「……そうかよ」

ポケットに手を突っ込んで三谷は去って行った。
しばらくその後ろ姿をボーっと見ていたヒトミは
和谷に名前を呼ばれて意識を取り戻した

「どうしたんだよ、打とうぜ」
「ごめん、三谷のとこ行ってくる」
「あ、おい!」

ヒトミの手を掴もうとしたが、すり抜けてヒトミは走って行ってしまった
つかめなかった右手を見ながら和谷は眉を下げた

「いつもあいつは捕まえられねーな」












































「三谷、三谷!」
「……」
「待ってよ!!」
「……んだよ」

随分と進んだところでようやく三谷をとらえた。
出店がある場所とは離れてしまったようで、
遠くでにぎやかな声が聞こえる

「三谷私と打って」
「はあ?」
「打ってほしい」
「……ヤだよ」
「何でよ」
「オレなんかと打つより、
アイツ等と打ったほうがいいだろ」
「私が三谷と打ちたいって言ってるんだから打つよ」
「何でおまえはいつもそうなんだよ」
「え?」
「おまえから寄ってくるくせに、オレが近寄ると逃げる」
「え?」

三谷の言っていることが理解できないヒトミは
ゆっくりと近づいてくる三谷を見ながら首をかしげる

「なあ、南条」
「ん?」

目の前で足を止めた三谷を見上げて、
背が伸びたななんてヒトミが考えている
一方三谷はヒトミの綺麗な何も穢れのない
真っ直ぐな目に吸い込まれそうになる

「三谷?」
「南条、おまえはさ」
「うん」

“オレのこと、どう思ってるわけ?”

そう聞こうと口を開いた時だった

「あ、進藤くん、見えないよ」
「バカ、静かにしなさい」
「ん?」

後ろから声が聞こえ、振り向くと
そこには建物のかげに隠れてこちらを見ているみんなだった。
ヒトミは何でそんなとこにいるんだと思っていると、
顔を真っ赤にした三谷がみんなの方に走って行ってしまった

「おまえら、なにやってんだよ!!」
「おまえこそ、南条に何言おうとしてたんだよ!」
「おまえには関係ねーだろ!」
「もう、あと少しだったのにー」
「み、三谷くん落ち着いて」
「うるせー!!」
「賑やかだね」
『そうですね』

ぎゃーぎゃー騒いでいるみんなを
佐為と笑いながら見ていると
まだ少し顔の赤い三谷が振り返り、鼻をかきながら言った

「おまえがどうしてもオレと
打ちたいって言うなら打ってやってもいいぜ」
「よし、三谷勝負だ!!」






2015/04/26


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