隣にいる者3

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行洋が目覚めた次の日、
ヒトミはまた佐為と共に病院を目指していた。

昨日は、あの後検査をするために
行洋は検査室に行ってしまったため、
ヒトミたちは病院を出たのだ。

なので、今日は検査結果を聞こうと思ったのと、
行洋の顔を見たくなったので、
病院に行くことに決めたわけだ。

「ヒトミ」
「あれ、ヒカルも、塔矢さんのお見舞い?」
「うん」

駅のホームでばったりと会い、
そのまま一緒に病院へと向う

「本当によかったな」
「うん。看護師の人からまだ目を覚まさないって
聞いたときは心臓が止まると思ったもん」
「だよな。それに病室でお前が自分のせいだーって
泣きだしたときは困ったぜ」
「本当のことじゃん」
「あのな、おまえは全部自分のせいにしすぎなんだよ!
あれはオレと佐為のせいでもあるだろ」
『そうですよ。ヒトミ一人のせいではありません』
「それにオレたちが
生きてんのは今だ。前とは違うんだよ」
「……うん」

そんな話をしていたらあっという間に病院に着いた。
昨日も来たので、もう病室への行き方は完璧だ。

「こんにちは」
「どうも」
「ヒトミ、それに進藤も」
「進藤くん!?」
「我々はおいとましますか、市川さん」
「大丈夫ですよ、二人とも」

行洋の横にあるソファに座っていたのは緒方、
市川、それと碁会所の常連の広瀬だった。

「進藤がお見舞いに来るとは意外だな」
「オレだって心配したんですから!」
「そんな言い方ないですよ、緒方先生。
せっかく来てくれたのに」
「それで、塔矢さん。もう大丈夫なんですか?」
「今はもう、何ともないよ。
あと10日ばかり入院しろと言われているがね」
「はぁー。よかった」

本当に安心したのか、
急に力が抜けたヒトミをヒカルが受け止める

「お前まで倒れたら洒落になんねーぜ。
塔矢先生が心配だったのも分かるけど、ちゃんと寝ろよ」
「うん、今日はよく寝れそう」
「ったくお前は、少しは自分のことを考えろよな」
「ありがとう」
「ヒトミちゃんと進藤くんって仲が良いのね。
とても信頼し合っているみたい」

口に手を当て驚いている市川。
それは緒方も同じだったようだ

「あれ?塔矢先生、パソコンやるんですか?」

さっきからノートパソコンが目に入っていたが、
うまく切りだすタイミングが掴めず、
今気付いたとばかり言うヒカルに緒方が代わりに答える

「ネット碁だ。院長に許可をもらって
昨日セットしたんだ。ネット碁を覚えれば
先生も退屈しないと思ってね。オレが勧めた」
「塔矢先生がパソコンを覚えられたなんて」
「いやいや、碁を打つだけなんだ。教わったのは」

『佐為、ネット碁で塔矢さんと打つ?
前はこの碁を打ったから佐為は消えた』
『打ちます』
『そっか。じゃあ、私も打とうかな』
『また私は消えるかもしれない。
しかし、それはいずれ来ることです。
ならば、私は打てるだけ打ちたい』
『そうだよね。消えるのを恐れて、
打つのを避けることはイヤだね』

「市川さん。そろそろ我々はこのへんで…」
「あ、そうね」
「私も今日はこれで帰ります」
「先生。ここにあるお見舞いの品、
御自宅にお持ちしときましょうか。私、車ですから」
「ああ、ありがとう」
「持とう」
「スミマセン。じゃ、失礼します」

緒方、市川、広瀬が出て行き、
残されたヒトミたちは
行洋に言われソファに座った。

そしてヒトミは直ぐに
先ほど佐為と話していいたことを行洋に伝える

「ネット碁をやるんでしたら、
私や佐為と打ちませんか?」
「何考えてんだよ!そしてらまた、消えちまうだろ!」
「打ちたいときに打って何が悪い!」
「ネット碁だけは止めてくれ!
それ以外ならいいからさ」
「もう、時間がないんだよ!」
「時間が……ない?」
「それは本当かね?」
「はい。本当です。
だから打てるだけ打ちたいんです」
「イヤだよ、オレ。
佐為が消えるなんてもうイヤだ!!」
「言っとくけど、私たちも消える可能性があるんだよ」
「……オレたちも?」

自分やヒトミが消えることは
全く想定していなかったヒカルは、
驚きと焦りが混ざった表情をしている。

幽霊の佐為とは違い、
今ここにしっかりと存在している
自分が消えることなど考えてもいなかったからだ。

「わかった。打とう」
「ありがとうございます」
「対局日はいつがいい?」
「十段戦に響かないのならいつでも」
「あ、あの!」
「ん?何だね、進藤くん」
「オレとも打って下さい!
もう時間がないのなら、塔矢先生と打ちたい!」
「では、来週の土曜日にヒトミちゃんと進藤くん。
次の日に佐為でいいかな?」
「ありがとうございます」
「時間は8時から進藤くん、
15時からヒトミちゃん。
佐為とは10時から。
持ち時間は3時間でどうかな」
「大丈夫です」
「オレもそれでいいです」

ヒカル、ヒトミ、そして佐為と行洋との対局日が決まった。
この対局で自分たちがどうなるかは全く見当がつかないが、
自分の精一杯の力で打とうと決心したのだった






2015/04/30


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