隣にいる者4

□121
1ページ/1ページ




日曜日。今日は佐為と行洋の対局がある。

ヒトミもヒカルも早めに朝食を済ませたため、
佐為と行洋の対局が始まるまでまだまだ時間がある

「そう言えば、来月には若獅子戦があるね」
「もう一年経つのか」
「決勝でアキラに勝ったけど、
あまり進藤ヒカルの名は広まらなかったね」
「まあ、ほっといても有名になるさ」
「ヒカルの実力じゃ、そうだろうね」
「そんなことより、オレはプロ試験が気になる」
「プロ試験ね」

プロ試験の本戦は八月下旬から行われる。

今年プロになる人が気になるのはヒトミも同じで、
和谷には本当にプロになってほしかった。

和谷をそんなに気にする理由は、ヒトミがいなかったら、
本当は和谷がプロになっているはずだったからだ。
ヒトミが和谷のプロになる枠を奪ったようなものだ

「実力で考えるなら
伊角さん、門脇さん、和谷だよな」
「実力順でプロが
決まるわけじゃないからね。どうなるか」

ピーンポーン。

ヒカルと話しているとインターホンが鳴った。

ヒトミがパッと時計を見ると9時少し前。
まだ佐為の対局まで
時間があるから大丈夫だろうと思い
立ち上がった時、ドンドンとドアを叩く音と、
よく聞き覚えのある声がした

「南条!おい、南条!」
「和谷の声?」
「ヒカルは奥の部屋に移動して」
「うん」

ヒカルが移動したのを確認してから、
まだドンドンとドアを叩いている和谷に声をかける

「今開けるから、静かにして」

ヒカルの靴を見えない場所に移動させてから、
ドアを開けると勢いよく両肩を掴まれた

「おまえ、電話が何で繋がらねえんだよ!
心配するじゃねえか!」
「あー、電話受話器から外しっぱなしだった
携帯は電源切ったまま」
「おまえなあ」
「仕方ないんだよ。
昨日塔矢先生とヒカルの対局があったでしょ?
それにgogoとも。
誰にも邪魔されずに、ゆっくり見たくて」
「おまえも見てたんだ」
「もってことは和谷も?」
「ああ、進藤のは途中からだけど、gogoのは全部見た」
「そっか」
「一緒に検討しねえか?」
「ごめん。この後用事があって」
「そうだよな。
いきなり来て悪かったな。オレ帰るよ」
「うん。心配かけてごめん」
「謝るなら、今すぐ受話器を元に戻して
携帯の電源を入れろ」
「はーい」

手を振って和谷を見送ってからドアを閉めた。
そして、急いで時間を確認するが、
まだあまり時間は経っていなかった

「よかった」
『突然の訪問者でしたね』
「そうだね。もう、対局中に
誰も来ないことを願うしかないね。
ヒカルーもう大丈夫だよ」
「和谷何だって?」

寝室から出てきたヒカルは何処となく
不安そうな表情をしていた

「私が電話に出なかったから心配したみたい」
「ああ、昨日切ってそのままだったっけ」
「そう。まあ、今日もこのままだけどね」
「イヤな汗かいた」
「それはこっちのセリフよ。
あー、そろそろパソコン立ち上げるか」

ヒトミがパソコンの前に座り、
パソコンを立ち上げる一方で
ヒカルは冷蔵庫の中からカルピスを出して
紙コップに入れ、
一気にコップ一杯飲み干して、また新たに注いだ

「ヒトミ、おまえカルピス飲むか?」
「飲むー!」

ワールド囲碁ネットのログイン画面のまま止めていると
ヒカルが飲み物を持ってきてくれたので
お礼を言って受け取った

「ふう、もうそろそろね」
『ついに来ましたね、この日が』
「どんな気持ち?」
『初めて対局するかのような気持ちです』
「なるほどね。じゃあ、もうログインしちゃおうか」

既にパスワードとかは入力しておいたので、
ログインをクリックするだけ。
名前の一覧が表示され、行洋を探すと、
すぐに見つかったので、対局を申し込み、開始した

『いきますよ』
「うん!」







































どんどん対局は進んでいき、
少し佐為がリードしてヨセに入ったとき、
佐為もヒトミもヒカルも一瞬固まった。

なぜなら行洋が放った一手が
ヒトミが打ったように見えたからだ。

ヒトミがあれ?と首を傾げている間に次々と進み、
行洋が投了したところで対局は終わったのだった

『……ありがとうございました』
「ここの一手」
「ヒカルも気になった?」
「ヒトミの手だ」
「だよね。驚いた」

佐為が未だにパソコンと向っている中、
ヒトミとヒカルは検討を始めていた

「あと、ここさ。塔矢先生こっちから打ったけど、
先にここに打っておけばさ」
「成程、そうなればここをこうして、こうして」
「あ、そうなるのか、お!
これなら塔矢さんの勝ちだ。また前と同じだな、佐為!」

ヒトミとヒカルが検討をやっていた
碁盤を見て佐為は驚いた。
そして、気付いてしまった。
この一局が生まれるために、
自分やヒトミやヒカルが時を遡って巡り合ったのだと
私とヒトミとヒカルと行洋殿が
出会うためにこの時代にそれぞれが集まったのだと

「佐為」
『ええ。もうじき私は消えるのでしょう。
この一局を存在させるために私たちはいるのです』
「じゃあ、もう役目はお終いか」
「楽しかったね」
「……ああ」
『……ええ』

ヒトミはスッキリした表情をしてたが、
佐為とヒカルは納得のいかない表情をしていた。
それは、二人とも違和感を感じていたからだった





2015/05/01


120へ/目次へ/122へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ