隣にいる者4

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「にしても、私とヒカルの
両方に宿れるようになるなんてね」
『そうですね、驚きです』

ヒトミが目覚めた次の日。
そこには佐為と楽しそうに話しているヒトミの姿が合った

「あなた、それ本当に独り言にしか見えないわね」
「あ、お母さん、お父さん」

先生に特別に許可をもらって、
面会時間外なのに来てくれた両親。

昨日ヒトミが目を覚ましたと連絡があり、
とんでやってきた二人は
仕事を休んで今はヒトミが住んでいるアパートで暮らしている

「体調はどうだ?」
「いいよ。ただ、体が重い」
「そりゃずっと寝たままだったんだから、筋肉も衰えてるでしょ」
「それは困るな」
「病院の中でも歩いて、体力をつけないさい」
「そうだね。じゃあ、ちょっと歩いてくるよ。
棋院にも電話したいし」
「付いて行こうか?」
「ううん、大丈夫。ゆっくり歩くから」
「そう?じゃあ、いてらっしゃい」
「行ってきます」

両親に手を振って、病室から出る。
思ったよりも歩きづらくて、一歩一歩丁寧に歩く。

『大丈夫ですか?』
『うん。早めに動けるように回復しないと、
北斗杯の一次予選に間に合わない』
『一次予選に出る方はヒトミを合わせて8人いるそうですよ』
『8人か。佐為私ね、もう我慢しないよ』
『はい』
『北斗杯は全力でぶつかっていく』
『はい』
『そういえばさ、私この後に起こること
何も覚えていないんだけど』
『やはりヒトミもでしたか』
『もってことは佐為や、ヒカルも?』
『ええ。ちょうど私がヒトミの前から消えた日から』
『何でだろうね』

何故いきなりこの後に起こることが
分からなくなったのかはわからないが、
もう気にしなくてよいということは
ヒトミにとって喜ばしいことだった。

ゆっくりと歩き、電話がある場所まで辿り着いたヒトミは、
暫くその場で息が整うまで待っていた。

長い期間寝たきりだったので、
相当他力が落ちてしまったようだ

「よし」

大分息が整ったところで棋院に電話をした

「もしもし、編集部の天野です」
「天野さん、おはようございます。南条です」
「南条さん!?」

想像以上に天野の声が大きく、
受話器を耳から思い切り遠ざけた。
そして、もとに戻し、話し始める

「はい、南条です」
「よかった。昨日目を覚ましたと聞いたが、
大分元気みたいだね」
「はい、なので北斗杯の予選は出れると伝えたくて電話しました」
「ええ?大丈夫なのかい?
北斗杯の予選自体はまだ先だけどだけど、
東京だけ4人に絞る一次予選までもう一ヵ月もないんだよ」
「知ってます」
「進藤くんに言われてキミの枠はあるけど、許可は出てるの?」
「病院から通うならよいと言われました」
「はは、まるで塔矢先生だ。わかったよ、南条さんも参加決定だ」
「お願いします」
「じゃあ、頑張ってくれ。一枠しかないから厳しいと思うがね」
「え?一枠?」

一枠とはどういうことかと聞きたかったが、
既に電話は切られており、
ヒトミの声は天野に届かなかった。

仕方ないと受話器を置き、再びゆっくりと歩き出す

『佐為、一枠ってどういうこと?』
『北斗杯に出る二人はもう決まっていますから』
『ああ、ヒカルとアキラか』
『ええ』
『楽しそうだな。
ヒカルとアキラと団体戦が組めるなんて』
『私も楽しみです。三人の団体戦を見ることができるなんて』
『あー、早く碁が打ちたい!』

そう思っていたヒトミだったが、
病室に戻り、ベッドに入った瞬間押し寄せて行きた眠気。

あれだけ歩いただけなのに、
今のヒトミには相応負担だったのだろう。
あっという間に眠りについてしまった












































ヒトミが眠りについて何時間か過ぎたとき、
だんだんと騒がしくなってきた病室。
そのせいで目を覚ましたヒトミの第一声がうわっ
だっだのは仕方がない

「みなさん、暇人なんですか?」
「暇人とは何だ!心配したんだぞ!」
「はいはい」

怒っているアキラをあしらい、
ヒトミは行洋の方を見る

「ヒトミちゃん」
「塔矢さん」
「この前とは逆の立場だな」
「はは、そうですね。
和谷、伊角さん。プロ試験合格おめでとう」
「おせーよ!」
「目を覚ましてよかったよ」
「ヒカル、アキラ、塔矢さん、緒方さん、芦原さん、
倉田さん、森下先生、白川先生、冴木さん、
和谷、伊角さん、越智、明日美。
私、色々吹っ切れたから、
これからの活躍期待しといて下さい!」






2015/05/04


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