隣にいる者4

□135
1ページ/1ページ




今日からアキラの家に泊まり込みで碁を打つ。
駅のホームにいるヒトミは
一緒にアキラの家に向うため二人を待っていた

『ヒトミ』
「よう」
「あともう一人か」
「もう一人?」
「あ、来た来た。社ー!」
「南条、一ヶ月ぶりやな」
「うん!また打てるね」
「どういうことだよ!何で社が?」
「説明はあと。ほら電車来たよ」

電車に乗り込んでからヒトミは
何で社がいるのかの説明を始めた

「ちょっと前に社から電話が合ったんだ。
北斗杯を見るためにこっちに来るから、
後でも前でもいいから打ってくれないかって。
で、私たちが打つやつに社も
参加させればいいんじゃないかって思って
アキラに相談したらいいって言ったんだ」
「オレにも言えよ!」
「別にヒカルがイヤって言うわけないし」
「そうだけどよー」
「社だって私だけじゃなくて
アキラやヒカルと打てればまた強くなるし」
「まあそうだな。んじゃ、よろしくな社」
「おう……何か食いもんのニオイがする」

先ほどから漂ういい匂イニオイ。
どうやらヒカルが持っている大きな袋からのようだ

「ああコレ。あ母さんに持たされたんだ。
みんなで食べなさいってお弁当。
余分にあるだろうし、社の分も足りるぜ」
「おお!ありがたい」
「…………」
「何だよ?」

じっと、ヒカルが持っている
お弁当を見ている社が気になったので聞く

「弁当作って応援か。うちの親とは大違いや思てな」
「大違い?」
「ああ。高校卒業するいう約束で
なんとかプロにはさせてもろたけど
今でも“碁打ちなんか”て言いよる。
明日・明後日学校休むんもだいぶウルサク言われたわ」
「…………めんどくさそうだな。
家は出ないのか?オレの友達で一人暮らし始めたヤツいるぜ」
「家をでたらアカン!
オレが活躍しても何も伝わらへん
“月刊囲碁関西”なんて家族の誰が読むねん!」
「あ、社次降りるよ」

車内アナアウンスで降りる駅の名前が呼ばれる

「オレが家に残ってオレの記事が載った
“月刊囲碁関西”を居間に広げて置いといたるんや。
まずはそこからや。ほんでいつかは
トップ棋士になってオレのことを認めさせたる」

社が言い終わったとき電車の扉が開き、三人は降りた。
そしてアキラの家までの道を歩きながら
先ほどの話の続きをヒトミがし始める

「本当に社が碁を打つことを反対している親なら
なんで今日社をここに来る許可をくれたんだろうね」
「何が言いたいんや?」
「北斗杯に出るのなら別だけどあんたは出れない。
北斗杯はネット中継で家でも見れる。
なのにわざわざ東京まで来る許可をくれて、
私たちと打つために東京での滞在期間を延ばしてくれた」
「……」
「本当に反対をしている親なら
そんなこと許さないよ。
社の親は確かめようとしているんじゃない?」
「確かめる?」
「どこの道に進むのが
一番社清春にとって幸せなのかを」
「まさか、そんなわけあるかい!」
「キミがそう思うならそうなのかもね。
私はキミの親に合ったこともないから理由なんてわからないよ」
「分からんやったら、勝手なこと言うな」
「うん、ごめん」
「ホンマ調子狂うわ」
「コイツと話すと、全部コイツのペースに持ってかれるぜ」
「今んのでようわかった」
「ははっ」

少しだけゲッソリとしている社を
ヒトミは笑って歩くペースを速めたのだった














































「おーい、来たぞーっ。塔矢ーっ」

ガラガラと玄関が開き、アキラの顔が見えた

「お邪魔します」
「あがらせてもらうで?」
「うわーおまえん家広いな」
「キミは礼儀というものはないのか」
「いいじゃんかおまえしかいないんだから!」
「そう言う問題ではない!」
「おい」
「社。二人の喧嘩を気にしていたらキリがないわよ」
「……そうなんか?」
「まあ、いい。案内するよ」

アキラに部屋まで案内してもらい荷物を下ろす。
その部屋には既に碁盤が二つ用意されていた

「そうや、オレにも打たせてくれておおきに」
「ボクは最初断ったんだ。
しかしヒトミがどうしてもと頼むから許可をした。
ボクたちは北斗杯の前の調子で打つ。
足手まといにはならないでくれよ」
「そんな言い方しないでよ。
アキラも見たでしょ?私と社の対局。面白いじゃん」
「キミは随分と余裕があるみたいだけど、
北斗杯のレベルを分かっているのか?」
「もちろん」
「ならいい、打とうか。
中国や韓国の棋譜の研究よりまずは打とう。
明日は倉田さんが来る。それまで打てるだけ打つ。
ただし一手十秒の超早碁」
「早碁はオレ得意やで」
「ボクが苦手だとでも?」
「早碁か……」
「おまえ苦手じゃねえだろ?
どっちかって言うと得意じゃねえか」
「バカ。考える時間が短いってことは感覚で打つんだよ?」
「あー、なんとかなるんじゃね?」
「この野郎。適当だな。よし、最初はヒカルだ!」
「おう!」
「じゃあ、社はボクとだな」
「やるで!」

こうして始まった早碁だが、
ついつい、いつものヒトミの手が出てしまう

『佐為ー』
『これはどうにもなりませんよ』
『こんにゃろ!』



















































「ヒトミ起きろ!」
「駄目やな。完全に寝むっとる」
「散々オレたちことは起こしやがったのに。
自分だけスヤスヤ眠りやがって」

早碁でたくさん打ち、
アキラとの対局中に眠ってしまったヒトミ。
起こそうとするが全く起きる気配がせず、
諦めてアキラは毛布をヒトミにかけた

「コイツ彼氏おんのかな?」
「社、おまえまさか」
「ちゃうちゃう。彼氏おって
こうして男の家泊まっとったらヤバイと思ってな」
「あーないない。コイツに彼氏はいねーよ」
「そうなんか?」
「いるわけねーだろ」
「決めつけるのはよくない。
中学の頃よく告白をされていたからな」
「ええ!?ウソだろ」

大声を出して驚くヒカルに
アキラと社が静かにしろと合図をする

「コイツがね」

ツンツンとヒカルがヒトミの頬を突くと、
それから逃れるように身じろぎをする

「そういえば進藤」
「ん?」
「キミはヒトミから全部話してもらったのか?」
「ああ、全部聞いた」
「こうして打ってもらえたが、
結局ボクには話してくれないのだろうか」
「近々わかるって言ってただろ?多分北斗杯のことだ。
その日、おまえはヒトミが隠していたことがわかる」
「……そうか。よし、ボクたちだけで続きを打とう。
ヒトミも直ぐに目を覚ますだろう」
「よし、塔矢!打とう!」
「待て進藤。次はオレや!」





2015/05/04


134へ/目次へ/136へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ