隣にいる者4

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北斗杯一日目。最初は中国対日本だ。
倉田を先頭にアキラ、ヒカル、ヒトミと順に対局場に入る。

中国チームは既に来ており、
倉田がメンバー表を渡しているとき
その隣にいた楊海と目が合ったヒトミは軽く頭を下げた。

すると、ホッとした表情に変わり、
楊海がヒトミの元へと歩いてきた

「昨日はすまなかった」
「あ、いえ。よくよく考えたら、
いきなり髪を切ったから分からなくても仕方がないなって。
勝手に怒ってすみませんでした」
「オレたちはキミが眼中にないわけじゃない。
最近女流棋士も力を付けてきている。
今日、キミの相手の趙石はキミとの対局を楽しみにしてたぜ」
「私も楽しみです。では、失礼します」

ヒトミは楊海に礼をしてから、
アキラ、ヒカルと順に肩をポンと叩いてから席に着いた。
するとヒトミの雰囲気が変わる。集中し始めた証しだ

「時間になりました。陸力五段、塔矢三段。
ニギリをお願いします。このニギリで副将・三将の手番も決まります」

アキラが白、ヒカルが黒、ヒトミが白と決まり、対局が始まった

『あなたたちの碁を見せて下さい』
『もちろん!』
『ああ!』
















































北斗杯検討室

「……おい倉田」
「何だ?」
「塔矢も進藤も予想以上の強さだ」
「だろうな」
「でも、南条はいったい……」
「オレもわからないんだよ」

ヒトミの強さは誰が見ても圧倒的だった。
皆が言葉を失い、画面に釘付けになるほどだ

「なんで初段なんだよ……なんで誰も
南条の名を知らなかったんだよ」
「アイツ、プロになって直ぐぶっ倒れて、
目を覚ましたのが北斗杯予選の一ヵ月前だったんだよ」
「南条が倒れた!?」

ヒトミが倒れたということに
一番反応を示したのは秀英だった

「倒れたっていうか怪我だな。
まあ怪我自体は一ヶ月ちょっとで完治したんだけど、
全然目を覚まさなくてさ」
「あ!趙石が投了したぞ!」
「よし、まずは一勝。
塔矢も進藤も勝ってる。よし!このままいけ!」














































対局場

趙石との対局が終わったヒトミは
石を片づけながら佐為と話していた

『なんかスッキリした』
『いつもよりのびのびと打っていましたね』
『うん。相手が趙石だったからかもしれない』
『感謝をしなくてはなりませんね』

「趙石クン」
「エ?」
「アリガトウ」
「……マタ打ッテクレル?」
「モチロン」
「……アリガトウ」

ヒトミは礼をしてから立ち上がり、
まだ対局をしている二人を見に行く

(ヒカルはそろそろ終局か。
五目半勝ちってところかな。
アキラは……終局か。四目半勝ちね)

『全員勝ちましたね!』
『うん。この調子で明日も勝つぞ!』
『はい!』

「二人とも行こう」
「おーい」
「倉田さん」
「お疲れ。メシにしようぜ。
それから明日の韓国戦な、大将は南条だから」
「ええっ!?南条さんが大将!?
な、なんで!?塔矢くんでしょ!?」
「団長のオレがそう決めたの!
明日の朝まで人には言うなよ。
さァ昼メシ食って中韓戦見ようぜ」
「ありがとうございます!」












































自分が明日は大将だと決まった日の夜。
ヒトミはどうしても確かめたいことがあり、
ある部屋の前にいた

コンコン

部屋のドアをヒトミは叩いた。
しばらくするとドアが開き、お目当ての人物が出てきた

「コンナ時間ニ、何ノ用ダ?」

頭一つは大きい永夏を見上げてヒトミは言う

「ホントノ事ヲ聞キニ来タ」
「ホントノ事ダト?」

永夏は自分より下にある顔を見下ろし、
何を言ってるんだとバカにした表情をしながら背を向けた

「待テ!」
「モウ夜ダ。アマリ廊下デ騒グナ」
「ナラ本当ノ事ヲ教エロ」
「……中ニ入レ」

永夏に続いてヒトミは中に入り、静かにドアが閉まった

「デ?」

永夏はベッドに腰掛け、話せと促した

「通訳ガ勘違イシタンダト私ハ思ッテタンダケド」
「ホウ?」
「ダカラ、秀英ガ高永夏ハソンナコト言ッテナイト
私ニ伝エニ来ルノヲ待ッテイタ。ナノニ、アノスピーチハ何?」
「何ッテ本心ダガ?」
「……ア、ソウ。モウイイ。夜ニ邪魔シテ悪カッタワネ」
「待テヨ」

どうやら、自分の思い違いだったようで、
それさえ分かればここにいる必要はないと
部屋を出て行こうとしたが、永夏に止められてしまった

「何故オマエハ大将ジャナイ?」
「実績ガナイカラヨ」
「……今日ノ対局ヲ見タ」
「ソウ」
「ドウシテオマエガ無名ナンダ。
ズット入院シテイタトハ聞イタ。
ダガ、オマエノ実力ナラ一局デモ打テバ話題ニ上ルハズダ」
「ズット手ヲ抜イテイタカラ」
「手ヲ抜イテイタダト?」
「心配ハイラナイヨ。明日ノ対局、私ハ本気デアンタヲ倒ス。
秀策ヲ馬鹿ニシタオマエナンカニハ負ケナイ」
「オイ、チョット!」

まだ聞きたいことがあったのだが、
伸ばした手は空を切りヒトミを捕まえることはできなかった

「マア、イイ。南条ヒトミカ」





2015/05/05


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