隣にいる者4

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プロ試験に合格したヒトミは、
今ヒカルたちにどのように思われているのか気になり、
電話をしてみたのだが、
まったく前と変わらずショックを受けていた。

そしてあっという間に時は過ぎ、
新初段シリーズになってしまった。

しかも相手は佐為。
泣きそうになったのは仕方ないだろう。
新初段シリーズに行きたくないと思ったが
そういうわけにはいかず、
なんとか足を動かし棋院にやってきて
今はカメラマンと記者を前にして佐為と並んでいる

「南条さん、もっと笑顔で」
「すみません、ムリです」
「緊張しているのかな?」
「ええ」
「……え、えーと藤原先生」
「……」
「藤原先生?」
「あ、はい!」

ずっとヒトミを見ていた佐為は
天野に話しかけられているのに気付かず、
二回名前を呼ばれて初めて気付いた

「先生は去年挑戦者として
新初段シリーズに挑みましたが、今年は逆の立場ですね。
南条さんのことはご存知でしたか?」
「え、ええ」
「そうでしたか。
では今回のプロ試験に全勝合格をしたことも?」
「はい」
「実は今回のプロ試験、
南条さんは2子置いて対局したんですよ。
なのに全勝合格なんてすごいですよね」
「え、2子置いてですか?」
「はい」

天野の言葉を聞き、驚きを隠せない佐為は
ヒトミからまた目を離せなくなった














































「和谷くーん、伊角さーん!」
「フク」
「フクも来たんだな」
「うん!ヒトミちゃん見たいから!」
「……なあ、フク。
プロ試験のときのあいつはヒトミだったんだろ?」
「そうだよ」
「フク、それは勘違いだよ」
「またそう言うの?
何で二人はわからないの?
あれはヒトミちゃんだよ!」

いくらフクが言っても、
ヒカルからヒトミが男と抱き合ってキスをしていた
ということを聞いていた二人は信じられなかった

「それより、もう始まるし行こうぜ」
「今日の対局を見て二人ともわかるよ。
ヒトミちゃんまた強くなってた」

フクの言葉になんて返していいのかわからない二人は
無言で顔を見合わせることしかできなかった

「「「失礼します」」」
「お、フクも来たんだ」
「進藤くん久しぶり!」
「森下先生!?」
「ずいぶん遅かったな和谷」

和谷たちが記者室に入ると
ヒカルや佐為やアキラはもちろん
行洋、緒方、芦原、桑原、倉田、森下、
白川、冴木、奈瀬、本田、門脇と
とてもたくさんの人がいた

みんなヒトミが気になっている人たちだった。
そして、今日ヒトミが打っているところを見れば
何かがわかると思って来たのだ

「お、始まったな」













































「……」
「……」
「……」
「……っ」
「ありません」

佐為が負けを認め、
ヒトミの中押し勝ちで対局は終わった。

自分の力を思いっきりぶつけて
佐為に勝てたのは嬉しかったのだが
佐為の自分を見る目が怖く、
打ってもわかってもらえないのかと思い、涙が出てきた

「……っ、佐為。
もう、どうすればいいの?
これでもわかんない?私は私だよ!」
「……」
「ううっ……ひっく」
「ヒトミ、すみません。
強くなりましたね、次は互先で打ちましょう」
「打って、くれるの?」
「ええ」
「佐為!!佐為!!もう、何でいるんだよ!
何で信じてくれなかったんだよ!もう、最悪だよ!」

ヒトミが佐為に抱き付き、大泣きをして、
ぐちゃぐちゃの感情をぶつける。

それを佐為が優しい笑顔で受け止めていると、
ドタドタとうるさい足音が近づいてきて
たくさんの人が幽玄の間に入ってきて
泣きじゃくって佐為に抱き付いているヒトミを見て驚いた。

芦原たちのようにヒトミのことを知らない人たちは
今の状況を理解できていなかったが、
よくわかっているヒカルたちは
自分たちのしてきたことを悔いていた

「……ヒトミ」
「っ!」
「っごめん」

ヒカルがヒトミの名前を呼ぶと、
あからさまにヒトミが肩を揺らし、
恐る恐るヒカルの方を振り向いた。

ボロボロ泣いているヒトミの涙は止まらず、
そんなヒトミを見てヒカルは苦しくなった

「ヒトミ」
「っ!」

今度はアキラに名前を呼ばれ
またヒトミは驚き、アキラを見る

「すまない」
「……」
「あんだけ一緒にいたのに気付けなかったなんて、最悪だよな」
「許されるとは思っていない。だが、謝りたかった」
「……勝手……っ過ぎない?」
「え?」
「許さないってわかってんなら謝んな!
ずるいよ、逃げてるだけじゃん!
自分たちは謝ったからいいって!
何よそれ!謝ったけど許してもらえなかった。
謝ったのにダメだった。許さない私が悪い、
自分はちゃんと謝ったってことでしょ!?ふざけないでよ!」
「ボクたちはそんなつもりは」
「自覚がないだけじゃない!
逃げてるのよ!自分たちは謝った、
だから許さないヒトミが悪いって、もうなんなんだよ!
もう、自分が何を言ってんのかもわかんないよ!」

ここまで感情的になったことがなかったので
自分で自分がわからなくなっていた

ただただ涙が止まらず、口が勝手に動く

「私はまた……みんなとっ笑って打ちたいよ」
「打とう!」
「え?」
「そうだな、打とうぜ」
「……うん!」

大きく頷いたヒトミの笑顔はとても綺麗だった





2015/05/05


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