小説
□月見、花見
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「刑部、何をしている」
春の宵、ようやく空気に温かみが増し
命がふき零れんとする季節とは裏腹に
われの身体は病に叫んでいた。
「…見やれ三成、ぬしのように細く鋭いあれを…」
その叫びが煩く、寝つこうとも寝つけぬゆえ
われはひとり、月見花見に興じていた。
「あれだと…?」
夜風に煌めく銀髪が、ふいと見上げた先には
同じ銀の細月が、漆黒に凛と一つ
細い細い月よ。
「月がどうしたと言うのだ」
怪訝な顔をした三成は頭を少し傾けてわれを見据える
その銀につられた桜の花びらが
ひらりと髪に乗るのが見えた
「いやなに、あの月を見てな、少しばかりぬしを思うただけよ」
そう言い微かに笑う我に
銀色はより一層の不満をその面に出した