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□無垢なる絆
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ドズッ……、
不快な音だ。
どこかの殺人狂の言葉を借りれば、肉に刃が食い込む音…とでも言うのだろうか。
けど今回はえらく間近で音がしたな。
目を閉じて詠唱に集中していたボクは一旦中断して目を開く。
紅い色が宙に舞う。
ボクの目の前で体勢を崩し、倒れる緑の少年。
少年と刺し違えたであろう、倒れる太い爪を持つ熊のような魔物。
ボクは、庇われたんだ。
「「スパーダ!!」」
ルカくんとイリアさんが叫んでこちらへ走ってきた。
ボクの足元にいるスパーダくんの周りはどんどん血に染まっていき、ここからでも彼の生気が徐々に無くなっていくのが分かる。
イリアさんが必死に回復術を試みている。
向こうから、待機していたアンジュさんとリカルドさんが走ってきた。
キュキュとエルマーナは青い顔をしながらこちらを見ている。
ルカくんは……泣いてるの?
ボクは今、どんな顔をしているのかな?
だいたい、彼がボクの知ってるスパーダくんならこんなところで死んだりしない。
ルカくんたちと無事、この旅を終わらせることが出来るのだから。
**********
スパーダくんの具合は想像以上に悪いらしい。
確かにボクを庇って大怪我をしたんだ。
それは間違いないし、悪いことをしたとも思ってる。
けど、死ぬはずはない。
この旅は誰1人欠けることなく無事に終わるものなのだ。
ボクたちの世界にはそう伝わっているのだから。
「コンウェイ?」
ボクに呼び掛けてくる声。
「ルカくん、どうしたんだい?」
「こんな街中にいたんだね。探しちゃったよ」
ルカくんが笑いかけてくる。
言いたいことがあれば早く言えばいいのに、ねえ。
「で、どうしたんだい、ルカくん」
「あ、あのね…。実はコンウェイを探してて……」
あー……。
そんなの見れば分かるから。
「スパーダの様子、一度も見に行ってないよね?……だから、あの……」
「もしかして……ボクが心配してないんじゃないかって、思ってるのかい?」
ボクがにっこりと微笑むと、ルカくんは震え上がったようだ。
…全く、失礼な。
「ご、ごめん…。そんなんじゃないんだ……ただ…」
「気にしないで。ボクは心配なんてしてなかったから」
ルカくんがあまりにまごまごしていたからこっちから先手を切ってみた。
ボクの言葉を聞いたルカくんはさぞ驚いたんだろうなぁ。
目を丸くしてこちらを見つめている。
ルカくんにはボクがどんな風に見えているのかな。
仲間の心配もしない薄情なヤツに見えるかな?
「ボクは、彼に終わりが訪れるなんて思ってないよ。大丈夫に決まっているよ」
そう、
それはボクらの世界の歴史が物語っている。
「あ、そう…だったんだ。……ごめん、なにか勘違いしちゃったみたい…」
ルカくんはそう言って乾いた笑いをあげる。
ボクは軽蔑されちゃったのかも…。
「ねぇ、でも……やっぱり、スパーダの様子を見に行こうよ」
ルカくんはまだ諦めていないらしい。
仕方がない。
これ以上嫌われたくないしね。
「うん、そこまで言うのなら行くよ」
我ながら動物園にでも行くような言い方だ。
ルカくんはまた複雑そうな顔をした。
その時、向こうからエルマーナが走ってきた。
「こ、こんなとこにおったんかいな!」
余程急いできたらしい。
息がかなり上がっている。
そう考えていたボクはエルマーナの次の言葉を聞いたとたん、
らしくもなく頭の中が真っ白になった……気がした。
「……あんな、スパーダ兄ちゃんなんやけど……」
**********
ベッドに横たわる彼。
普段は煩すぎるぐらいなのにぴくりとも動かない。
腹部の裂傷は凄惨さを極めているのに、その表情はひどく安らかでて。
年のわりには幼さが残る少年。
もう2度と目を覚ますことはない。
どこから狂ったのであろう?
確かにスパーダはルカたちと共に無事に旅を終えるはずだったのだ。
それはボクらの世界の歴史が物語っていた。
……ボクを庇ったりするからさ。
そう思うボク自身、なんだかやりきれない。
ボクなんかを庇って命を落とした馬鹿な彼。
そんな彼を笑えない馬鹿なボク。
この気持ちこそが
《無垢なる絆》
というものだろうか……?