□マイペース紳士/栄口
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例えば電車やバスの中。

我先にと座席を探し、我先にと開いたドアに向かっていくせっかちな人が多いと思う。

中には周りに合わせて急ぎ足になり、自分の速度を見失っている人も居るだろう。

私も例外ではなく、せっかちに電車から出ようとする人混みの中に飲まれてしまう。


(私ここで降りないのに・・・っ!)


こういうときは流れに身を任せて外で待っておくのが賢い。

この前逆らって止まろうとしたらフルボッコに遭って大変だった。


(・・・・・・さむっ)


電車の中はあったかくてコートを着てると脱ぎたくなるくらい暑かったが、あっという間に冷めてしまった。


「あれ」

「あ」


栄口だ。

と言おうとしても電車の外ドアで2人突っ立っているこの状況に顔を見合わせて笑った。


「流されて?」

「流されて。流石にもう逆らおうとは思わないよ」


12月も半ばに差し掛かり、もうすぐ一年が終わりそうだ。


「今日も部活?」

「うん。そっちは?」

「私は遊びの帰り」


いいなーなんて言われたけど、私からしたら青春してるあなたが羨ましいよ。

座席は空いていなくって、歩き回って疲れた私の脚は限界に達していた。


「私は栄口のほうが羨ましいけどね」

「え、どこが?」


例えばその笑顔とか、気遣ってドア付近の壁を私に譲ってくれるとことか、さっきも自分から外に出て降りる人を優先してるとことか。

羨ましい、というよりいいな、と思う。



そんなこと言えないけど。


「にしても寒くないの?」

「案外寒くないよ。動いてると逆に汗かいてくるし」

「えー風引くよー」


速度が緩くなると、次で降りるのか、かなりの人数が席を立つ。

案の定私たちはさっきの場所に留まることなく外に出て乗客を待つ。

その際、余りの寒さに体が震えてしまって笑われた。


(いやだって寒いじゃん!)


栄口は上にコートを羽織ってるだけのラフな格好。

私はというとロングコートにマフラーに手袋。

何この差。


(あ・・・)


中に入り空いてる席を見つけ向かいそうになった思考をシャットダウンさせる。


(ダメダメ。栄口居るし)


これ以上おばちゃんっぽいところを見せたくなくて私は元の場所に立った。


「え・・・」


栄口は私の手を取って奥へ歩いていく。

え、なになに何するのてか何してるの。


「ここ、空いてるから座ろうよ」


確かに他は二人座席に一人座っている状況で、二人座席が空いているのはこの車両の中ここだけだった。

ね。と笑顔を見せる栄口は紳士じゃないかと思う。


「だって足痛いんでしょ?」

「・・・うん。限界」




マイペース紳士
(かっこいいなんて、言えないよ)

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