My Dream

□第五章
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杉原さんが来てからそろそろ一ヶ月が経つ。

その間に他のスタッフさんや、メンバーと仲良くなり、よく話をしている。

なのに、私ときたらどうだろう…。杉原さんを見ると固くなって、未だに満足に会話をした事がない。

そして今日も…

『あ、柏木さん、おはようございます』

「あ…、お…おはようございます」


この程度の会話だけ。

「はぁ…」

「どうしたの?ゆきりん。もしかして、雄作くんのこと?」

私の事情を唯一知っているまゆゆが、私の顔を覗きこむ。

「ねえまゆゆ。杉原さんが来てからそろそろ一ヶ月でしょ?」

「うん、そうだね」

「なのに私、まだ杉原さんとまともに話した事ないんだよね」

「え!そうなの?」

「うん、そうなんだ」

私はそう言ってうなずく。

「一体どうして?」

「私、あの人の前に立つと、変に固まっちゃって、何も話せなくなっちゃうんだ」

「あ〜、そりゃダメだよゆきりん。何も話せないんじゃあ、そうなっちゃうわな」

「うんうん」と、自分自身の言葉に一人で納得するまゆゆ。

「どうしたら、杉原さんと仲良くなれるかな…」

私が聞くと、まゆゆは即答した。

「だったらまずは、ゆきりんから雄作くんに話しかける事だな」

「え…、私から…?」

「うん、大丈夫。雄作くん優しいから、すぐに仲良くなれると思うよ」

「でも、話すきっかけが…」

「ああ〜、きっかけねぇ…」

言ってまゆゆは、人差し指を頬に当て、天を向く。


しばらくして、まゆゆは口を開いた。

「そうだ。雄作くんの仕事が終わった時とかに『今日もお疲れ様でした』って声かけるのとかどうかな?」

「うんうん。なるほど…」

そう言ってうなずく私を見て、まゆゆはさらに続ける。

「その時に、手作りのクッキーとか渡したりとかしたら、そのまま雄作くんのハートをゲットできちゃうかもよ?」

そう言ってまゆゆは、笑顔で私を見ると、すぐに真顔に戻って言った。

「あ、ゴメン。ゆきりんじゃ手作りはムリか…」

「……………………」



* * *



『え?今度のライブにですか?』

「ああ、今度、地方であるライブにスタッフとして一緒に行って欲しいんだが」

戸賀崎さんの部屋で俺は戸賀崎さんにこんな話をもちかけられていた。

『はい、全然大丈夫ですけど、どうして急にこのような話を?今までだってライブはあったのに』

「いや、君を雇ってからだいぶ日が経つから、そろそろこういう仕事もしてもらおうかなって思ってね」

『そうですか、わかりました。帯同させていただきます』

「ああ、頼むよ」

そう言って戸賀崎さんは、俺は肩を叩いた。

『はい、では今日は失礼します』

俺は部屋を出て、ゆっくりとドアを閉めた。
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