空に満つ


□第九話
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男は、不自由で不器用な生き者だ。








縁側から、倒れ込むように部屋に上がった。
俺達は月夜と絡み合う。


愛しい、嬉しい。
守りたい、壊したい、手に入れたい……。


思いは湧いては渦巻いて。
重ねた唇の合間から、俺は苦しげな息を吐く。




帯を解き、着物を剥ぐことすらもどかしい。

中途半端に緩めた合わせから、強引に顔を埋めた。
だけど性急に吸い付いたこの肌の、全てが今すぐに欲しくなる。
……じれったくなってつい、俺は乱暴に腰紐を引く。


それは一瞬琴子の体に食い込み、彼女が息を呑むのが分かる。
一拍おいて、シュッと小気味よい音と共に引き抜かれると、琴子は堪えていた息を漏らす。


緊張、微かな恐れ。
そして安堵。


移り変わる瞳の色に、俺は高ぶるのを抑えられない。




もう、刺激を刺激とも感じない程、それは慣れきった行為だったはず。

今日もう充分に怖い思いをした琴子を、これでもかと甘やかしてやるつもりだった。



だけど俺は、奪うように琴子を抱く。
熱い舌で、その女の部分を確かめる。


優しく滑らせるはずの指は、荒々しく体をまさぐった。
安心させてやるような言葉もない。ただ切羽詰まった息遣いだけが、部屋中に溜まっていく。


(画/ダイヤ様





……どうかしてる。


頭の隅に僅かに残った、冷静な部分がそう告げる。

それは理性と言うよりも、どうにかなりそうな俺自身への警告のようでもあり。


それでも俺は琴子の熱を孕んだ体を閉じ込めて、少しずつ俺の凹凸の形に変えていく。





しがみつく琴子の瞼に光る雫を、せめて唇で拭ってやった。

うっすらと開いた目に俺だけを映し、琴子の唇は、俺の名を喘いで痛みを逃がす。
そんな震える肩を掴んで、俺は最後の逃げ場も奪う。



眩暈を覚える程、愛しくて苦しくて愛しい。

追い詰められたのは、もはや俺も同じ。

俺は思い切り琴子を揺らして、そしてまるで、初めての時のような声をあげた。









まだ呼吸も戻らぬうちに、俺はまた両手で琴子を探し求める。
夜に溺れたまま、いつまでもその名を呼ぶ俺の耳に、そっと囁く声がする。


――ずっと、こうしたかった。




その言葉に俺は安心して……そして泥のように眠った。










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