「お袖、話がある。」
こわごわと前へ進んできたお袖の左手を有無を言わせず掴むと、秋斉はそのまま部屋の中に引き入れた。
手をつかんだまま、後ろ手で乱暴に襖をしめる。いつもと違う秋斉の様子に、お袖が怯えている。
はっとして、掴んでいた手を離した。
山喜屋の、口車に乗ってはいけない。
あの男が本当に試そうとしたのは、これじゃない。
「…よう聞くんや。」
秋斉は、座るよう促してゆっくりと話し始めた。
「夕べのことは、もう方々で噂になっとる。人の口に戸ぉは立てられへん。」
お袖は、居心地悪そうに下を向いている。
「結局は、あんさんの為にならん。自分を貶めるようなことは、もうせんと約束し。」
お袖が顔を上げた。お袖の瞳に、秋斉が映っているのが見える。
「……わてをもう、がっかりさせんといてくれ。」
「…よ、ようわかりました、旦那はん。」
お袖は少し頬を染めて、頭を下げた。
「旦那はん、お茶をお持ちしましたぇ。」
お袖を下がらせ、入れ代わりにお柳と向き合う。
お柳は何か言いたげだ。
「……なんも惑わすようなことはしてへんよ。」
「……あれぐらいなら、ええでしょう。」
茶を一口啜って、秋斉は苦笑いする。
お柳はなんでもお見通しだ。
「しばらくは二人ともおとなしゅうしとるやろ。これ以上の締め付けはせんでえぇ。せやけど、今度はもっと目立たんいけずがあるかも知れん。お柳はそこをよう見とって欲しい。」
結局、一番頼りにするのはお柳だ。
「へぇ。……旦那はんは、わてをがっかりさせまへんな。」
そして迎えた三日目、山喜屋から見事な三人分の着物が届き、女達は呆気なく懐柔された。
一緒に添えられた手紙には、今回は取り急ぎ用意したのでこんな粗末な品で恥ずかしい、今後もお付き合い出来ればもっといい贈り物が出来るだろう、としたためてあった。
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