――わてはもう、二回倒れとる。次が三度目の正直や。この夏の島原通いで、お迎えも早まるやろ。
せやから、あんさんは法師でも陰明師でも、一番効く呪詛を習うて毎日死ね死ねと唱えとったらええ。
けんど、いくらわての面の皮が厚いゆうても、好いたおなごに呪詛をかけられるんは切ないで。
わてが死んでからのことは、おりんには黙っといてくれんやろか?…敵を欺くには味方から、ゆうのと同じだす。
山喜屋の身請けの申し出は、喜ぶべきものだ。
おりんと弟達、まとめてあの親父から引き離し、面倒をみると言ってくれている。
このまま藍屋にいれば、どんなに追い払ってもあの親父はやってくる。
おりんは夜な夜な違う座敷に呼ばれ、秋斉はまんじりともしない夜を過ごす。
朝帰りのおりんを、一体どんな顔して出迎えるだろう。
――お疲れさん。よう気張って、ええ娘やね。
いつかそれすらも、当たり前になって慣れてしまうのだろう。
秋斉のそばで、藍屋で暮らすということは、どんなに先伸ばしにしても、そういうことだ。
だったら、決まった旦那と暮らすほうがいいに決まっている。
お柳が、山喜屋は四、五年前に体を壊したと言っていた。三度目の正直というのは、あながち嘘ではないのかも知れない。
しかし山喜屋の死後云々の話は、当てにはならない。
真に受けず、お伽話だと思って聞いていればいい。信じたふりをしていれば、しばらくは慰めになるやも知れぬ。叶わぬとて、腹も立たぬ。
今やるべきことは――
藍屋の人間にも分からぬよう、おりんを山喜屋に渡すこと。
おりんを笑顔で送り出すこと、それだけだ。
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