西門を出て暫く歩いた。
三条の辺りまで来て適当に左、右、左と三回曲がると、目に付いた暖簾の出ている店に入って酒を頼んだ。
客のまばらな店内で明るいうちから飲む酒は、俺をちょうど良くやさぐれた気分にする。
味などはなから分かりはしない。
ただ喉元から臓腑へと、じりっと胸を焼いて落ちていくだけだ。
「……旦那はん、えらい勢いで飲んではるなぁ…。」
何度目かの酒を運んできた女は、そう言うと秋斉の隣に座って酌をした。
「寝酒や、こないなもん。」
ぶっきらぼうに言い放つ秋斉の手に、女が自分の手を重ねる。
「こないに早いうちから?……せやけど、よう眠りたいんやったら……二階に行かはる?」
「……なんや、ここは酒だけやのうて、色も売っとるのか……?」
秋斉が初めて女の顔を見やると、誘う仕草とは裏腹に、まだ若い女は随分と心許ない顔をしていた。
……新しいお客がつかんと、女将さんに叱られてしまうよって、助けたって……?
窺うように小さな声で囁く女は、色気よりも必死さばかりが目についた。
そんな女の様子が憐れで、秋斉はその細い腰を引き寄せると、そのまま耳たぶに唇を寄せる。
「買うたる……案内しぃや……。」
少しは酔えたかも知れない。
酒に酔って女に逃げて、そうしたら琴子は、俺に呆れて心置きなく結城の所へ行くだろうか。
あの二人は、この世であの二人しか知らない世界を共有している。
俺が想像もし得ない世界を、あの男は琴子の手をとって進んでいくことが出来る。
琴子が俺から去ったなら、俺は心破れる程も嘆くだろう。
そしてやがて、俺はその傷痕さえ、愛でるだろう。
消えてしまうことのないよう、何度でもえぐるだろう。
それは、後の世に生まれた琴子と俺が、間違いなく同じ時を生きた、その証を刻むものだから。
胸に引っ掛かるちりちりとした痛みをもう一度酒で流し込むと、
女に手を引かれ、秋斉は階段を登っていった。
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