Parallel World

□きのうのあした 5
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それは雨上がりの悪ふざけの感覚に近いのかも知れない。
指の間まで泥水が入ってくるのを感じながら、わざと大きく足を踏み出すような。





衝動は興奮を呼ぶ。
それでもまだ足らないアドレナリンは、自分で引き出せばいい。夜明けが町を駆けるスピードで、俺は走り出した。



吸って吸って、
吐いて吐いて、

腕を振った分だけ、伸びるストライド。
上がる心拍に、こめかみを流れる汗。


喉の奥が渇いて何度かむせた。かまわず走り続ければ、やがて心臓の音と大地を蹴る自分の足音とが、ひとつのリズムになって俺の背中を押す。

研ぎ澄まされる五感に届くのは潮の香り。そして朧気な朝日を受けて光る木々の緑。まるで羽の生えたように次々と視界に飛びこんでは、後方に消えていく。




“北村さん、今日出発するんだ。伝言があれば俺が伝える。”

そう言ったらあの人は、頑張って頑張って笑顔を作った。ゆっくり考える時間はなかったはずだけど、餞(はなむけ)の言葉を俺に預けてくれた。



信じられないことばかりおきて、かわすことばかり覚えた。

そんな俺が急に勇敢に生まれ変わることなんて出来なくて、だけどそれなら、今は後先考えない馬鹿に徹してやると思った。どうせ昨日から、無茶ばかりしてるんだ。

理由なんかなくていい。
細かいことなんかどうでもいい。
いま俺が信じるのは、俺の意思で自在に動く、この体と直感だけだ。


伝えたいことがある。
俺にはもっと出来ることがある。
だからまだ、そこにいてくれ。
間に合ってくれ。




それだけを念じて、陸上部に頼まれてかり出された、いつかの駅伝大会の時よりも、俺は懸命に走ったのに。一万メートル30分を切るくらいの体感で、俺は本気で駆け抜けたのに。


それなのに。






こんなのって、あんまりだ。









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