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 朝起きて、今日は何日だろうという疑問が浮かんだ。だけど、それを考える前に、空腹が頭を支配した。もぞもぞとベッドから出て行き、階段を降りた。

「あら、やっと起きたの、ツナ?」
「ん…。嗚呼、おはよ、ビアンキ」

 階段を降りた所で声を掛けられた。これから何処かに出掛けるらしい。鞄を肩から掛けて、玄関に向かって来ていた。

「ツナ兄、おはよう!」
「***!」
「おはよ、フゥ太、イーピン、ランボ」
「ガハハ!!ツナはお寝坊さんだもんね!!」

 ビアンキの後ろから現れた三人も、外出する様な装いをしている。

「何処行くの?」
「京子達の所よ。そう言ったら、子供達も行きたいって言うから」
「え!?京子ちゃんの所!?」
「そうよ。今日はハルも泊まりに来るから、一緒に料理を教えてほしいらしいわ」
「り、料理…」

 あの、幼虫やら害虫やら異臭やらで大変な物を作る人に料理を教わろうなんて、よく考えられるよなぁ…。そう思いながら、ビアンキ達を見送った俺は、腹の虫に応える為にリビングに向かった。リビングに入ると、枝豆の筋を抜いている母さんが居た。

「おはよう」
「あら。おはよう、ツナ。すぐに朝御飯を用意するから、ちょっと待っててね」

 そう言って立ち上がった母さんに、手伝うよ、と言って、俺も台所に立った。

「まあ。有難う。じゃあ、お味噌汁を温めてもらえるかしら?」

 味噌汁の入った鍋を火に掛ける。欠伸をしながらお玉で掻き混ぜていると、今日はお留守番お願いね、と言われた。唐突な言葉に、俺は母さんを振り返った。

「…?何処か行くの?」
「あら。言って無かった?今日は、三時から高校の時のお友達と会う約束が有るの」
「三時?…って、もう一時過ぎてたの!?」
「そうよ?まあ、何も無い日位は、寝たいだけ寝なさい!…そうそう!今日会う人だけどね、会うの久し振りなのよ?その人ねぇ、今迄北の方に行っていてね―――」

 それから二時に為る迄、母さんは延々とその人の話をしていた。俺は、ご飯を食べ終わった後も暫くその話を聞いていた。そういえば、こうして母さんと二人きりの食卓で食事するのは、凄く久し振りだったなぁ…。うちにあいつが来てから、どんどん居候が増えて、何時の間にか大所帯に為っていた。…って、そういえば、あいつは何処行ったんだろう?
 母さんの話が終わって、食器を流しに出した後に気が付いた。あいつの姿が見えない事に。リビングの入り口の所で思い出した俺は、洗い物を始めた母さんを振り返った。

「母さん」
「なぁに?」
「リボーンは?」
「嗚呼。リボーン君は今―――」
「今帰ったぞ」
「…っうわあ!!?」

 母さんの言葉に被せる様に、すぐ後ろから低い声がして、俺は思わず驚いて声を上げてしまった。慌てて振り返ると、其処には案の定リボーンが立っていた。サッシに肘を着き、その手の甲を頬に当て、寄り掛かって見下ろして来るその姿に、俺の心臓が跳ね無い筈はなく、顔に熱が集中した。

「まあ。早かったのね」
「ああ。良い豆がすぐに見付かったからな」

 そう言ってビニール袋を持ち上げたリボーン。その袋から透けて見えるパッケージには、エスプレッソと英語で書いてあった。コーヒー豆を買いに出掛けていたのか…

「俺が帰って来る迄に起きられて良かったな。帰って来てもまだ寝ていたら、ベッドから蹴落とそうと楽しみにしていたんだがな」
「なっ!?春休みなのに強制起床ー!?」
「当然だろ。お前の家庭教師は俺だぞ?俺はスパルタだからな」
「今日も勉強かよ〜…」
「解ったら、さっさと歯を磨きに行け」
「はいはい…」

 そう生返事をして、そそくさとリボーンの横を擦り抜けた。赤く為った顔なんて、母さんに見せられないよ…。リボーンは、買って来たエスプレッソを仕舞う為か、俺と入れ違いにリビングへ入って行った。

 呪いが完全に解けて、元の姿に戻ったリボーンは、あの戦いの時、俺に死ぬ気弾を撃ったあの格好好い人だった。何でリボーンの旧友だ≠ニ名乗ったのかは解らないが、そんな事はどうでも良く為ってしまう程に驚いた。リボーンがあんなに格好好いだなんて、有り得ない…!最初はそう思って戸惑っていたけど、一緒に生活して行く内に、そうとしか思えないと解って、諦めて受け入れる様に為った。一度受け入れてみると、尚更格好好く見えて来て、中学の三年目が終わる頃には、リボーンに対する感情に、新たな芽が芽吹いてしまっている事を認めざるを得なく為っていた。

「何、変な顔してんだ」

 俺が、歯に挟まった物を取ろうと鏡に向かっていると、リボーンが脱衣場の入り口から顔を出した。鏡越しに奴をチラリと見る。やっと挟まった物が取れて、水で指を洗いながら反論した。

「変な顔じゃねぇよ。仕方無いだろ?歯に筋が挟まっていたんだから」
「ほ〜ぉ。そんな物、俺に頼んでくれりゃあ、取ってやったのによ」
「…っ!!…っば、馬鹿言うな!!」

 …嗚呼…また赤く為っちゃった…。そう思いながら、歯ブラシを取って、歯みがき粉を付けた。



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