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□莫奇-バクキ-
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1.

キーボードを打ち、机に山積みになったレポートの一つ一つに目を通す。
時折見つける誤字脱字を赤鉛筆で修正する。
3時頃から始まったこの作業、なかなか終る様子がないが今日中になんとか片付けなければならない。
一度手を止めて腕を持ち上げ伸びをする。
後ろの時計に目をやれば時刻は4時38分を指していた。
大きなため息を一つつく。
一服しようと立ち上がると軽快なドアを叩く音が聞こえた。
「飯島先生いらっしゃいますか?」
声のする方へ顔だけを向けると、研究室の入口で一人の青年が両手で紙束を抱えるように持って立っていた。
一瞬自分の顔が引き攣ったのがわかる。
「3-2の課題を持ってきました。」
青年は目を合わせることなく、遠慮がちに声をだした。
「ご苦労さん。そこの青い箱の隣に置いといて。」
言われた所に紙の山をおくと、これまた目を合わせることなく、一礼をして出ていった。
またため息がでる。

高校の時の面子で飲もうとメールで連絡がきたのが10日程前のこと。
始めは欠席するつもりだったが、何気なくみた参加予定の面子の中に当時付き合っていた彼女の名前をみつけた。
自分から思いを告げ、彼女が両親の都合で引っ越すことになり別れた。
別れたことを後悔し、連絡を取ろうと何度か携帯を握ったものの、結局自分に自信がなくて連絡できず今に至る。
別れてから何人かの女性と付き合ってはみたものの、彼女のことが今だ忘れられずに10年以上の月日が過ぎていた。

飯島はもう一度時計をみる。
一服するのはあと回しにして、もう一度机に向かい始めった。
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