第1回與花祭

□触らないで
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2.触らないで


なあお前、ちょっとスキンシップ過多じゃないか?
他人と触れ合うことに慣れていない俺は、誰かにベタベタされることを嫌う。
それなのに、そんなことはお構いなしでやたらと近い距離で、やたらと触れてきて。
正直、どう対応すればいいか分からなくなる。
そんな俺の葛藤も知らず、今日も與儀は呑気に俺に触れてくる。

「花礫くん、おはよう。今日はちゃんと起きれたんだね〜」

挨拶だけで済ませばいいのに。いちいち頭を撫でるな。

「无ちゃんもおはよー」

ぎゅうっと笑顔で抱き付いて。无も嬉しそうに「與儀、おはよー」と抱き返す。
ほら。俺が特別なわけじゃないんだ。ただこいつは、スキンシップが好きなだけ。
2人を無視して朝食を食べ終わる。
今日もいつものように暇だし、昨日気になる本を何冊か見つけたからそれを借りて読もう。
まだ食べている2人を置いて、食器を片付けるとサッサと部屋を出て行った。
2人が何か叫んでいたが、無視してやった。


元々スキンシップが激しいやつだと思ってはいたが、最近とみに触ってくるような気がする。
頭を撫でたり、抱き付いたり。手を繋ぎたがるのはしょっちゅ
うだし(これは、无もそうだ)、肩を抱き寄せたり。
无と一緒に俺も構いたくて仕方がないのか、何かと誘いを掛けてくる。
でも最近はそれだけじゃなくて。
うまく言葉じゃ言い表せないが、无がいない時の與儀は、普段の子供っぽさがなりを潜め、大人の顔をする。いや、與儀は俺より6歳も上で大人だけれど。
そんな時は、いつもとは違う触り方をする。
まるで、愛しいものに触れるかのように、優しく慈しむかのように。
俺はそれが堪らなく嫌だった。
與儀にそうされる度に、俺が俺でなくなっていくような気がした。
俺は自分のために、輪を、こいつらを利用しているだけ。
ここを、居心地よく思ってはいけない。
本を借りて、俺と无が使っている部屋に戻る。
戻ってみれば、无はいなくて。
まだ飯食ってんのかな、と時計を見れば、思ったより時間が経っていた。
ついつい目移りしてあれもこれもと手を伸ばしたせいか。
大方、飯食ってそのまま遊んでいるのだろう。
二段ベッドの上に上がり、壁に背もたれる。
どうせすぐに邪魔が入るに違いないが(いつもそうだから)、それまでは自分の時間を満喫しよう。
機械を弄っている時と、こうし
て本を読んでいる時が一番落ち着く。
誰もいない部屋。ページを捲る音だけが微かにして、本の中へと入り込む。
以前、俺が読んでいる本を見て與儀がしきりに「偉いね」と感心していたが、まだまだ足りない。もっともっと、いろんな知識を吸収したい。
ほんの数ページ読み進めたところで、扉が開く音がした。
下を見れば、與儀がいて。

「花礫くん、部屋に戻ってたんだ。探しちゃったよ〜」

ちらりと見ただけで、視線は本に戻す。

「何だよ」
「うん。給仕の子がね、お菓子を作ってくれたんだよ。一緒に食べようよ。すっごく可愛いんだよ!」

甘いものは好きでも嫌いでもない。これで无が誘いに来ていたら渋々行くところだが、與儀が来たし断ってもいいか。

「今いいところだから、いらねー。お前らで分けて食えよ」
「えー、一緒に食べようよー。无ちゃん、待ってるよ」

予想通り、一度で諦めない與儀。

「お前からうまく言っておけよ」

パラリとページを捲る。
珍しくしつこく誘ってこないな、と思ったら、にゅっと手が出てきた。

「何読んでるのー」

少しだけ驚いたが、一切顔には出さなかった。

「お前に言っても分かんねーよ」

それでも一応タイトルを見せてやれば、眉根を寄せて困ったような顔をする。

「相変わらず、難しそうな本、読んでるね……」

ベッドの縁に置いていた手が伸びる。

「花礫くんはいい子だね」

頭を撫でられ子供扱いにムッとするが、その手がスルリと頬に降りる。

「花礫くん……」

空気が変わったことに気付き與儀を見れば、いつもの子供っぽさがない。
まるで、愛しいものを見るような、與儀の眼差し。
頬を包み、優しく撫でる。
こんな触り方、今までしなかった。

「花礫くん、俺……」

触られている頬が熱くなり、心臓がうるさいくらいに鳴る。
やめろ。俺が俺でなくなる。
こんな風に甘やかされることを心地よく感じてしまったら、1人で生きてきた俺が俺でなくなってしまう。
无のことが片付いたら、また1人で生きていかなくてはならないのに。
與儀なしでは、いられなくなってしまう。

「俺に、触るな!」

これ以上は耐えられなくて、與儀の手を思いっ切り振り払い、拒絶した。
傷ついた表情を浮かべる與儀に、それでも俺は何も言えなかった。


END


 
 

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